10代が本気でラジオ番組をつくったら、学びの新たな可能性が見えてきた【軽井沢キッズメディアラボの10カ月】

コラム 2022.02.04

軽井沢駅構内にメインスタジオを構えるラジオ局、FM軽井沢。2021年の春から秋にかけて、このスタジオを中心にユニークな企画が進行していました。小学生から高校生までの10代の子たちがゼロからラジオ番組をつくる軽井沢キッズメディアラボ。子どもたちがこのチャレンジによって見せてくれた変化は、学びのあり方を町全体として考えさせるきっかけになりました。

軽井沢キッズメディアラボとは

2021年4月17日、軽井沢町長倉にあるEtonHouse Karuizawa Learning Hubに、小学生から高校生まで約20名の子どもたちが集まりました。この日のキックオフを皮切りに、5つのチームが3カ月間をかけてそれぞれ30分のラジオ番組をつくるプロジェクトがスタート。これが軽井沢キッズメディアラボです。

(軽井沢キッズメディアラボ提供)

FM軽井沢が開局20周年を迎える節目の年。「町の歴史を、放送を通して観光客や地元の人に知ってもらう」というラジオ局としての原点に改めて立ち返り、若い世代に関わってもらうことで町の新たな魅力を発信しよう、という目的で生まれたプロジェクトなのだそうです。

プロジェクトを支えた人たち

「公共の電波を使って、子どもたちがラジオ番組を生放送する」。チャレンジングでユニークなこのプロジェクトを支えたのは、こちらの3名です。

(軽井沢キッズメディアラボ提供)
中央:大山茂さん(るーさん)
探究者/元FM軽井沢放送局長・現メディアラボ局長。通信・ネットワークサービスの開発、運用に長年従事したあと、終の棲家として軽井沢での暮らしを選択。「探求」をテーマに若い世代のサポートを行っている。

右:小山裕嗣さん(まんぼさん)
舞台演出家/演劇共育実践家/FM軽井沢 パーソナリティ。2019年春に軽井沢へ移住。現在は、アートプロデュースカンパニー Art-Loving代表を務めながら、首都圏と軽井沢を中心に演劇共育の実践、普及に努めている。 

左:藤岡聡子さん(さとちゃん)
福祉環境設計士/コミュニティディレクター。診療所と大きな台所があるところ ほっちのロッヂ 共同代表も務める。ファンづくりに特化したマーケティングを元に、業界の新しい価値を生み出し、人の流れの再構築を目指している。

公共放送・演劇共育・コミュニティづくり。それぞれの専門家が集まり話し合われたのは、ラジオ番組をつくる過程こそ、生きる力の根本となる学びを体験できるのではないかという問いだったそうです。

軽井沢では2014年にユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパンが開校して以来、2020年に軽井沢風越学園、EtonHouse karuizawa Learning Hubなど、独自のカリキュラムを展開している教育機関が次々に設立。コロナ禍でのリモートワーク推進を追い風に、教育に関心の高い人々が軽井沢・御代田・佐久地域への移住を選択しており、公立・私立問わずエリア全体で教育に対する熱が高まっています。

そのような中、軽井沢キッズメディアラボ放送局長である大山さんは「ラジオ局として、子どもたちの探求学習の機会を提供したい」と考えたとのこと。1つの番組を制作するには調査力・コミュニケーション力・編集力・言語力・表現力など、さまざまなスキルが必要とされます。こういったアクティブラーニングこそが今後教育の主流になっていくという運営の強い思いが、この企画の根幹を支えました。

(軽井沢キッズメディアラボ提供)

「子どもたちには生まれ持った能力があり、とてもクリエイティブ。だからこそ、学びはもっと自由でいいと思っています」と語る小山さん。運営メンバーは「それぞれの個性を活かす」という視点で、子どもたちと向き合うのではなく、同じ方向を見て伴走することを大切にしてきたようです。

本当にゼロからつくり上げた! 5つのチームの活動内容まとめ

今回のプロジェクトでは、5つのチームが独自の切り口で「軽井沢の町」を魅力的に紹介しました。5つのチームのコンセプトと参加メンバー、扱ったテーマを紹介します。

Aチーム 活動・放送の報告はこちら

チーム名:M`s

メンバー:アイカ、ユウハ、シュウト

テーマ:令和の旧軽theベスト5~M’sが選ぶ映エル場所♡~
軽井沢高校2年生の3名が、同じ世代に向けて旧軽井沢エリアのおすすめスポットを紹介する。ティーンの視点から、旧軽の魅力の再定義に取り組んだ。
Bチーム 活動・放送の報告はこちら

チーム名:スリーピース

メンバー:ソウイチロウ、カナエ、サイト

テーマ:軽井沢町の歴史的な建物とジョンレノン
町内の小学校に通う3名で結成された最年少チーム。メンバーそれぞれの興味を組み合わせテーマを決定。年齢的な部分での心配もあったが、アポ取りから取材、収録まですべてをやりきった。
Cチーム 活動・放送の報告はこちら

チーム名:4S

メンバー:ソラ、ケン、ミサト、ハルアキ

テーマ:軽井沢町の日帰りおすすめびっくり自然スポットめぐり
3つの中学校から集まった4名。生まれも育ちも軽井沢というメンバーもいれば、移住して1年のメンバーなど、背景や個性は多種多様。しかし、プロジェクトの過程で見せた団結力はNO.1。
Dチーム 活動・放送の報告はこちら

チーム名:TRACK and Flowers GO

メンバー:カホ、アヤノ、レン、タケト

テーマ:軽井沢VS御代田〜若い世代必見!祭りの秘密~
御代田町で生まれ育ち、現在は軽井沢高校1年に通う4名。「祭り」を起点に2つの町の歴史を探った。チーム結成当初から意気投合。体当たりしながら経験を積んでいった。
Eチーム 活動・放送の報告はこちら

チーム名:Break the ISAK!

メンバー:UWC ISAK Japanの高校3年生6名からなるチーム

テーマ:マグネット of the world~軽井沢町 世界をくっつける町~
出身国が違う6名。すでにポッドキャストの運営をしている彼らが、この企画で取り組んだテーマは、軽井沢で暮らす外国人とコミュニティの紹介。

聞き逃した方に向けて、ポッドキャストサイトを公開中です。誰でも聞くことができますよ。

参加したみんながやみつきなる理由。藤岡さんにインタビュー

10カ月間、一人ひとりの子どもたちに最も近い場所で伴走してきた、運営メンバーの藤岡聡子さんにお話を伺いました。

編集部:藤岡さんはどういう役割で関わっていましたか?

藤岡:参加する一人ひとりのエンゲージメントをどう高めることができるか。これを考えて実行するのが、私の役割でした。上から目線でもなくこびるわけでもなく、チームメンバーとして対等に関わることを大事にしていました。
軽井沢キッズメディアラボが目指すものはさまざまありますが、私のスタンスは比較的シンプル。「どんなきっかけでもいいから、自分が暮らす町を知って楽しんでくれればOK」です。

編集部:藤岡さんが考える、軽井沢キッズメディアラボの魅力とはなんですか?

藤岡:子どもの本気を、大人が本気で応援するプロジェクトだぞ! ってところでしょうか。テーマを自分が暮らす町に絞り、自らの足でネタを取りに行く。ラジオなので映像は使えず、声だけで伝えなければならない。しかも校内放送などではなく、公共の電波に乗せるんです。ヘラヘラなんてできないですよ(笑)。
実際、Aチームの1人が「ラジオ番組をつくるといっても、結局大人がやるんでしょ? って思っていた。でも本当に全部自分たちでつくっちゃったんだよね!」と。この言葉通りなんだと思います。遊びではなく本気で向き合わなければならない。そういう点でかなりユニークです。

編集部:部活動のような雰囲気もありつつ、仕事のような感覚も?

藤岡:まさに、職業体験です。アポ取りから取材、機材の取り扱い、原稿作成、リハーサル、そして本番まで。これって仕事ですよね。彼ら、普段ほとんど電話はかけないので、アポ取りの電話をかけるときなんて、もう手足がプルプル。でも「やりたい」「知りたい」「学びたい」という内発的な動機があるので、やらされなくても動けるんです。

編集部:3カ月で番組をゼロからつくり上げるのは、大変でしたでしょうね。

藤岡:大変だったと思います! ドラマチックなこと、思いがけないトラブルもたくさんあったけれど、それでもみんな「またやりたい」と言うんです。「あんなに大変だったのに、やりたいの?」とこちらが驚いてしまうほど。すっかりやみつきになっていますね。

編集部:やみつきになった理由はなんだと思いますか?

藤岡:自分に自信が持てたんだと思います。10代、いわゆる思春期と呼ばれるこの時期は、親から少し距離を置いて、自分自身に興味が湧いてくる頃。「まさか私がラジオ番組をつくるなんて!」という思いが、経験を積むことで「私、結構できるんだ!」に変化します。10代の彼ら彼女らが、家でもない学校でもない場所でこういった成功体験を積めたら、やみつきになりますよね。

また、他者との向き合い方でも気づきが多かったのではないでしょうか。ラジオ番組をゼロからつくるプロセスでは、一人の力では到底できないことを思い知らされます。共同作業をする過程で相互理解が深まり、「他の人と一緒に仕事するのはおもしろいんだ」と感じたようです。

編集部:今後の展開について教えていただけますか?

藤岡:今後は軽井沢町だけでなく、他の自治体でも展開できるとおもしろいなと思っています。アクティブラーニングの1つの手段として教育現場で活用するのもよいですし、職業体験という点でもかなり意味があります。しかも、町をフィールドに活動するので、地域への愛着がものすごく増すんですよ。今回参加した子どもたちの中で、「この町好きじゃない」という子は一人もいません。当たり前ですけれど!

編集部:今回も軽井沢町役場やFM軽井沢だけでなく、さまざまな活動をしている人たちが関わっていましたね。

藤岡:20以上の団体・個人に協力いただきました。子どもたちの様子はnoteを読んでいただけるとわかりますが、彼ら彼女らの変化によって私たちもたくさんの気づきをもらえましたし、毎回感動します。この仕組みは教育の専門家じゃなくても、子どもたちの学びに関われる有効な手段なんです。これからも、多くの人と一緒にこのプロジェクトを盛り上げていきたいと思います。

町を舞台に、子どもも大人も学びをアップデートしていく

プロジェクトを追いかける中で目にしたのは、「よいものをつくる」「よい情報を届けたい」という真剣なまなざし。そして、それぞれの強みや好きを組み合わせ、ほどよい距離感でつながるチームワーク。家庭でもない、学校でもない、第3の場所で培ったこの経験は、彼らの人生にポジティブな影響を与えていくだろうと確信しました。来期は少し形を変えつつ、引き続き子どもたちと企画を進めていくとのこと。今後の活動が期待されます。

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