この地域でできること、やってみたいこと。サンラインエリアの現役地域おこし協力隊に話を聞いてみた

コラム 2023.05.31

地域密着型のメディアを運営していると、地域活性のための活動をしている人や、まちおこしに興味を持っている人に多く出会います。その中でたまに遭遇する地域おこし協力隊の隊員さん。

編集部でも「地域おこし協力隊という制度があることは知っていても、具体的にどのような活動をしているのか、なぜ隊員になろうとしたのか、当事者のストーリーを聞く機会はあまり多くないよね」という話に。「それなら座談会を設定して、話を聞いてみよう」となったのが今回の企画です。

浅間サンライン周辺の3自治体から3名の隊員に集まっていただき、座談会を実施しました。協力隊になったきっかけや活動内容などから、地域おこしとはなにかについてさまざまな角度でお話を聞いていきます。

インタビュー:サンライン編集長きむくみ
取材実施:2022年7月

小林拓馬さん:東御市地域おこし協力隊

長野県立科町出身。2021年4月着任。地域情報発信支援担当として東御市の公式YouTube「東御市チャンネル」をはじめとし、SNS、広報誌、ラジオ配信などを運用。

Twitter:https://twitter.com/Jios100

永田賢一郎さん:立科町地域おこし協力隊

神奈川県横浜市出身。2020年6月着任。移住定住促進担当として、町内の「町かどオフィス」を拠点に、移住定住相談や空き家の利活用、魅力的な場所づくり、地域づくりに取り組む。

沼井大志さん:上田市地域おこし協力隊

東京都中野区出身。2021年4月着任。上田市武石地域を中心に観光地域づくり、アウトドア・アクティビティの創出・推進などに取り組み中。

なぜ、地域おこし協力隊の道を選んだの?

まずは、みなさんが地域おこし協力隊になったきっかけを教えてください。

では僕から!東京のテレビ局で記者をしていましたが、コロナ禍を経て、報道のあり方や働き方に疑問を感じ始めていたんです。また、子育ては地方でしたいという思いもあり…。そんなとき、東御市の広報担当の協力隊募集を見つけ、移住を決意しました。

協力隊以外の仕事もされていますよね?

コロナ禍でオンライン教会を立ち上げ、牧仕(牧師)をしています。zoomでの会合やYouTube配信などを行っています。

上田市で協力隊をしている沼井です。僕は都内のメーカーに勤めていて、建築関係の部門でファシリティマネージャーをしていました。

僕の妻もファシリティマネジャーです。おもしろい仕事ですよね。

ファシリティマネジメントは、企業や団体がそれぞれの活動のために、自ら保有する施設とその環境を総合的に企画、管理、活用する仕事です。それは地域の資産をどう活用するのかという視点にもつながるなと感じていました。

なるほど。

これから先の人生を考えたとき、移住という選択肢がでてきて。地域おこし協力隊の活動の中に、ファシリティマネジメントの要素が十分にあると感じたので、思い切って応募しました。現在は協力隊をしながら、長野県立大学大学院のソーシャルイノベーション研究科にも在籍し、地方創生や社会変革の研究をしています。人のつながり、コミュニティのデザインに興味があります。

立科町の永田です。僕の本業は建築で、横浜に設計事務所を持っています。横浜では空き家や空き店舗活用をし、まちなかの拠点づくりに取り組んできました。いくつか施設を運営してみて、こうした事業は都心部だけでなく地方でも展開できるし、地方ならではのおもしろさがあるかもしれないと感じたんです。

僕、実は立科町の生まれで! 永田さんはなぜ立科町の協力隊を選んだんですか?

幼い頃、祖父母が立科町へよく連れてきてくれて、長野にはいい思い出があり、老後は長野に住みたいと考えていました。そうしたら偶然、空き家活用・移住定住促進という立科町の地域おこし協力隊の募集を目にしまして。

募集内容を確認すると、僕が横浜でやってきたことと相似していたので、自分が適任だと思いました(笑)。今は、バスや電車で東京と横浜を行き来しながら、2拠点で活動しています。

それぞれのミッションは?活動の仕方や目標設定は全く違う!?

それぞれ所属している行政との間で約束したミッションはありますか?

東御市は個々が比較的具体的な目標を持っていますね。僕の場合は、2022年中に東御市のYouTube登録者数1000人を掲げています。
(2023年5月現在登録者は1540人を突破)

立科は今後の人口減少の予測に対して、移住者をどのくらい増やしていくかという目標があって、数字目標が共有されています。施策の一つに空き家バンクを活用した空き家の有効活用があり、積極的に推進しています。

上田市はこのへんでは大きい自治体なので、東御市や立科町とは少し活動の仕方が違うかもしれません。募集の段階から活動エリアが決まっていて、派遣された地域での観光振興がメイン。ミッションのもと、タスクを進めていきます。

沼井さんが担当されている武石地域は、どれくらいの規模ですか?

人口約3000名ほど。2022年の4月から過疎地域に指定されました。リソースが限られたエリアで、地域をどのようにデザインするかに挑戦しています。

少しお話を聞いただけでも、目標設定や活動内容などは全く違う印象ですね。協力隊の動きから、それぞれの自治体の特徴も見えてきそうです。

東御市は現在8人(取材当時)が活動しているんですけど、年齢もバラバラで、セミリタイアした50代の隊員もいます。ワイン&ビアミュージアム、海野宿の滞在型交流施設「うんのわ」、観光情報ステーションなど、市が保有する施設に派遣されることが多い印象ですね。

隊員同士の交流が盛んですよね。

月に1度ミーティングをしていて、活動内容や情報のシェアが行われています。食事会もよく行いますよ。

立科町は現在5名(取材当時)が活動しています。元新聞記者や経営コンサルなど専門職の人が多くて、割と渋めなのが特徴かもしれないですね(笑)。町に対しては遠慮なく言いたいことを言っている感じです。

編集部:行政側に受け入れる余白があるんですね。

せっかく来たのだから、僕たちの専門性を活かしたいじゃないですか。明確なミッションがない分、こちらからどんどん提案して、やりたいことを実現していっています。

上田市は現在10名(取材当時)です。上田市全域をフィールドに行政の担当課に所属して活動している人もいれば、僕のように地域に派遣され活動する人もいます。地域密着型とも言えるでしょうか。だからこその悩みもありまして…。

地域をくくることの意味。組織の壁はとっぱらえるのか?

縁もゆかりもない場所でミッションやタスクを提示され「どう達成していこう」と考えるとき、他地域との連携は欠かせないと思ったんです。例えば、東京からピンポイントで武石に観光に来る人は少なく、上田市の中心地を経て足を延ばす人が圧倒的に多いです。

たしかに。とりあえずは市街地へ行き、そこで「武石が面白い」と聞けば行ってみようと思います。

観光客や移住者を増加させるなどのデザインをするためには、他地域・他自治体とのつながりは重要です。僕は活動の中で組織の壁を越えることも意識しています。

そう!立科は空き家バンクを活用した移住推進に力を入れていて、徐々に登録者数や利用者数は増えているんです。でも町が賑わいを見せているかというと、そうでもなくて…。これまで町民だけで何とかしようと考えていたけど、町内だけで解決する必要はないんですよね。

隊員個人の活動をとってみても、壁を取っ払えるとよいなと感じたことがあります。コロナ禍で担当していたお祭りが中止になってしまった東御市のある隊員は、サンドアートのアマビエを作って市内に勝手に置き始めたんです。のちに市内を巡るプロジェクトにまで成長しました。

当初のミッションにはない活動を自分発で進めていったのですね。

まちの活性化というゴールさえぶれなければ、ミッションや具体的なタスクにとらわれすぎなくてもよいんだと、勉強になりました。

「〇〇市の協力隊」といった感じで地名が入ってしまうから、どうしても地域にとらわれがちだけど、より大きなゴールを目指すなら行政区も超えていけるといいですよね。

自治体を横断できるの、いいな!

例えば、配属された自治体を相性悪くて続けられないってときも、「うちでやろうよ!」って誘いあえるといいよね。

それぞれのリソースをもっと溶けあわせられるとよいです。壁を作らず、ゆるやかにつながっていくことで、社会もゆるやかに変わっていくと信じています。

協力隊には出口戦略が必要!?それぞれの今後のキャリア

こうしてみると、協力隊としての働き方っておもしろいですね。

一般的な働き方の枠組みで考えたとき、協力隊の働き方はどれとも少し違っています。正社員でも派遣社員でも、パートでもない。

しかし協力隊には奉仕的という印象はありませんか?

確かにそう。ボランティアというイメージがあるみたい。

第2のキャリアとして選んでいる人もいるんですよね。協力隊という名前だから若いイメージあるけれど、今の立科の協力隊は誰も若くないから(笑)

興味のある地域に出向いて、与えられたミッションの元、自分のスキルを活かして地域の仕事をする。既存のキャリアのイメージとは違うけれども、こういう働き方、生き方もあるんだよというモデルをつくっていけそうですね。

名前がよくないかもですよね!建築家としての僕にとっては、地域住民と関われるし行政ともつながれ、仕事にもつながる。これもキャリアであると意識するだけで、見方は変わってくると思います。

地域をどう捉えるのかでも、活動の範囲が大きく変わってきそうですよね。

僕は自分の住んでいる町を地域と認識していますが、もう少し解像度を上げると人とのつながりこそが地域かもしれないなと思いました。

自治体とかの枠組みだけで捉えるものではなくなっていくでしょうね。

たしかに。Society 5.0という世界観も生まれてきている中で、これまでの概念や尺度では語れなくなっていくような気がします。

それぞれ残りの任期で、どういったことをしたいと考えていますか?

これまで携わってきた、空き家の利活用・移住の相談所である町かどオフィスの後任が決まったので、「長期的な視点でどのようにしていくか?」を一緒に並走しながら考えていきたいと思っています。

任期終了後の予定などは決まっていますか?

永田(立科町):個人の活動として、空き家を改修し自宅兼カフェ、宿泊施設、レジデンスとして準備をしています。イメージとしては、立科町を訪れた人がスムーズに町に溶け込める入口のような場所。今年度中に完成させたいですね。

僕は引き続きYouTube「東御市チャンネル」で任期いっぱい発信し続けていきます。これまでは市民に向けた行政ニュースが中心でしたが、今後は外部に向けて東御市の魅力を発信していきます。東御の特徴や人気店、魅力的な人を紹介していく予定です。

任期終了後は?

このまま東御市に住み、牧仕(牧師)の仕事を主軸としつつ、自分のスキルを活かして地域貢献したいですね。具体的には、動画を通じた地域のPR活動や、子ども向け英語教室などの教育領域に興味があります。

僕は残りの任期で、大学院で学んでいることを元に、地域おこしの実践をしていきたいですね。「武志・未来。つなげるプロジェクト」を通して、武石の魅力に気づき多くの人と出会えたので、今後も一緒に盛り上げていきたいです。

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具体的には、首都圏の子どもたちに武石へ来てもらい自然体験をするツアーなどを企画しています。経済が循環する仕組みづくりをデザインし、効果が最大限になる方法で実行したいです。

「このまちでやってみたいこと」にあふれている3名の話をうかがって、地域おこし協力隊へのイメージがかなりアップデートされたような気がしています。これからどのような活動を展開されるのかがとても楽しみです。小林さん、永田さん、沼井さんご協力ありがとうございました!