ある日森の中でクマさんに出会うかも!?野生動物と人間の関係を考えてみよう

コラム 2021.08.05

2021年5月8日、東京発金沢行きの北陸新幹線がJR軽井沢駅―佐久平駅間でクマと衝突し、緊急停車したというニュースがありました。全国ニュースにもなったので記憶に残っている人もいるのではないでしょうか。近年、軽井沢周辺では野生のツキノワグマが人間の生活圏に出没し、度々問題になっています。

長野県内の山間部にはクマをはじめシカやイノシシといったさまざまな野生動物が生息しています。そのため、行政や民間団体が中心となって、野生動物が人里や田畑に侵入しないよう、さまざまな対策を行っています。今回のコラムでは、この地域に暮らしているとわりと身近な存在である野生動物たちに目を向け、その生態や共生の可能性について考えてみましょう。

数が増えすぎても減りすぎても困る!?長野県の野生動物について

長野県では、鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律に基づき、野生動物の管理をしています。ある特定の野生動物の数が極端に増えたり減ったりすることは、山の生態系のバランスが崩れ他の動物にも影響が生じるためです。動物たちの行動が人間社会にどのような被害や影響を及ぼすかを調査し、適切な対応をしていくことが野生動物の保護管理において重要とされています。

管理の対象となっている野生動物(2021年3月31日現在)

管理背景対象鳥獣
農林業被害の拡大や
生態系の撹乱
カモシカ、ニホンジカ、ニホンザル、ツキノワグマ、イノシシなど
地域的な減少の恐れツキノワグマなど

【参考】
長野県『第二種特定鳥獣管理計画の概要

長野県内のツキノワグマによる被害状況

では、野生動物たちはどのくらい目撃されているのでしょうか?ツキノワグマの例を紹介します。長野県林務部鳥獣対策・ジビエ振興室が公開している「県内のツキノワグマの里地での目撃件数の推移」によると、2020年4月~2021年3月にかけての目撃件数は1437件、内人身被害件数は12件です。

6月から10月にかけて目撃件数が多く、山のエサが少なく農作物が収穫を迎える8月が最多目撃件数となっています。夏休みを利用して登山をする人も多いことから、8月は「ある日森でクマさんに出会うかもしれない」要注意時期であると言えるでしょう。


【出典】
長野県林務部鳥獣対策・ジビエ振興室『長野県のツキノワグマ目撃及び人身被害の状況

軽井沢町でのツキノワグマの被害状況

続いて、新幹線の衝突事故があった、軽井沢町での2020年度のツキノワグマ被害状況です。

野生鳥獣被害報告(ツキノワグマ)

件数内容
被害情報42件屋外ゴミ、雑排槽の被害、農作物被害
目撃情報203件通報件数(述べ件数)
捕獲70件捕獲69頭、駆除1頭

※写真はイメージです

軽井沢町は言わずと知れた避暑地であり別荘地。浅間山麓の深い森の中に別荘やペンションなどが点在しています。森の中で人々が生活しているということは、人間と野生動物が近い距離にいるということ。ツキノワグマは屋外ゴミ置き場などに捨てられた人間の食べ物を狙い、別荘エリアに出没するようになったそうです。


【出典】
軽井沢町『令和2年度野生鳥獣被害報告書

知っていますか?ツキノワグマの生態について

ところで皆さんはツキノワグマについてどのくらい知っていますか?

ツキノワグマは落葉広葉樹林のあるところに生息しており、本州や四国でみられます。名前の由来は、胸の白毛部分が月の形の首飾りをしているように見えるから。人間を襲うイメージが先行しているため肉食と思われているようですが、実は食べ物の9割以上が植物という雑食性。普段は山林の中をすみかにしているものの、特にどんぐり類が不作の年は、食べ物を求めて、人里近くに近づくことがあるそうです。

クマと出会わないようにするには

クマにとっても人間との出会いはハイリスクですから、お互い出会わないですむのならそれに越したことはありません。クマとの出会いを避けるためのポイントをまとめてみました!

※写真はイメージです
①出没情報をチェック
クマが頻繁に出没する地域では、行政からクマの出没情報が公開されているのでチェックしましょう。防災無線で目撃情報と注意喚起を行う場合もあります。早朝・夜間はクマと出会う可能性が高くなるので注意しましょう。 

②クマに人間の存在を知らせる
クマは人間の気配に気付くと避けようとします。山に入るときはラジオやクマ鈴など音の出るものを使い、早めに人間の存在をクマに知らせましょう。

③クマが隠れていそうなところに注意する
山だけでなく町中でもクマが出没する可能性があります。山に近い林や川沿いのヤブ、沢、見通しの悪いところは注意しましょう。

それでもクマと出会ってしまったら

対策をしていてもクマに出会ってしまうことがあるかもしれません。長野県では年間1400件以上の目撃情報があるのですから! いざというとき慌てず対応できるよう、クマに出会った場合にとるべき行動をまとめました。

①周囲にクマがいると気がついたとき 
落ち着いてその場から離れます。クマを見ながら、背を向けずに、ゆっくり後退してください。 

②すぐ近くで遭遇してしまったとき 
急に動くとクマが驚いて攻撃してくることがあるので、慌てず、 クマが立ち去ってからその場を離れましょう。突発的に襲われたら、両腕で顔や頭をガードして、大ケガを避けるようにします。  

③子グマに遭遇した時
子グマが単独でいる場合は、近くに母グマがいる可能性があります。子連れの母グマは非常に神経質なため、子グマにも決してに近づかず、落ち着いてゆっくりとその場から離れましょう。

【参考】
環境省『クマに注意!

クマとの共生を目指す取り組み

皆さんに質問です。人間に目撃されたクマはその後どうなると思いますか?

猟友会などが駆除を行うイメージがあるかもしれませんが、最近では人間とクマの共生を目指す取り組みも行われています。その理由は、長野県内のツキノワグマは個体数の減少の恐れがあること、クマは学習能力の高い動物であることからです。これまでの調査・研究により全てのクマが問題を起こすわけではないことがわかっています。

※写真はイメージです

ここからは、野生のクマをやみくもに駆除するのではなく人間とクマの共生を目指し、保護管理活動を行っている団体を紹介します。

①NPO法人ピッキオ

ピッキオは軽井沢星野エリアの一角にある環境NPO法人で、クマの保護管理については軽井沢町からの委託も受けて活動しています。「人の安全を守ること」と「野生のクマを絶滅させないこと」の両立を掲げ、調査データを元に「駆除に頼らない」対策を実施。特別な訓練を受けた犬「ベアドック」と共に活動し、人とクマが適度な距離を保ちながら、共に暮らすことを目指し保護管理活動をしています。


【参考】
特定非営利活動法人ピッキオ『クマ保護管理について
軽井沢町『軽井沢町鳥獣被害防止計画について

②NPO法人信州ツキノワグマ研究会

信州ツキノワグマ研究会は、長野県を拠点に活動するNPO法人です。1995年、上高地のホテルが排出した生ゴミに誘引された2頭のツキノワグマを捕獲・放獣したことが、最初の活動だったようです。その後も農業被害関係のツキノワグマに対し、非致死的な手法での対策を実施しています。野生の象徴でもあるツキノワグマへの理解を深め、生息環境の保護・保全、人とクマの共存の実現に寄与することを目的とし活動を行っています。


【参考】
NPO法人信州ツキノワグマ研究会

山は動物たちのすみか

野生動物について考えるとき、人間の営みを基準にすると「どのような被害があるか」という視点で取り上げられることが多いため、厄介者扱いされがちです。しかし見方を変えれば、野生動物たちの生息エリアに侵入しているのは私たち人間かもしれません。

※写真はイメージです

山には山菜や果実といった食料、豊富な水、薪など、豊かな資源があります。自然の恵みを受け取るためにも、そこに住む野生動物と、どのように暮らしていくとよいのかを考えていくことが重要です。まずは私たち人間が「山は野生動物のすみかである」ということを自覚し、必要な対策をしっかりと行うことが、お互いの存在を認めあうことにつながるのではないでしょうか。みなで、人と野生動物の適切な関係を考えていけるとよいですね!