子どもたちが森の中で過ごす1日。自分の責任で自由に遊ぶプレーパーク ~さとやまモリニティ~

コラム 2022.05.09

リュックを背負い帽子をかぶって、子どもたちは八千穂高原の森の中へとぐんぐん進んでいきます。遊び場に到着すると、火起こし、木工、追いかけっこなど、各自やりたいことにいちもくさん。

ここは、南佐久郡佐久穂町で開催される週末プレーパークさとやまモリニティ。みなさんはプレーパークという遊び場をご存じですか?今回のコラムでは、2019年からプレーパークを運営している、さとやまモリニティ代表の滝沢卓己さんに、場づくりのきっかけや運営で大切にしていることについて伺いました。

子どもたちが自由に遊べる場、プレーパーク

プレーパークとはどういった場なのでしょうか。一般的な定義や、さとやまモリニティのあり方などから、その特徴を捉えてみましょう。

(滝沢さん提供)

そもそもプレパークとは?公園などの遊び場施設との違い

プレーパークとは、禁止事項をできるだけ少なくし、自分の責任で自由に遊ぶことをモットーにした遊び場のこと。 

日本で最初に作られたのは1979年、東京都世田谷区の常設型プレーパーク「羽根木プレーパーク」です。以来、子どもたちが自由にのびのびと思いきり遊べる場として、全国各地に広がりを見せています。

特定非営利活動法人 日本冒険遊び場づくり協会によると、プレーパーク又は冒険遊び場を運営している団体は2020年の調査で458団体。地域住民やボランティアで自主運営しているものも多く、さまざまなタイプのプレーパークが運営されています。

(滝沢さん提供)

最近では「ボール遊び禁止」や「大声で騒がない」など、遊び方にルールを設ける公園も少なくありません。プレーパークと公園の大きな違いは、禁止事項を極力なくしていることと言えるでしょう。「やってはいけない」を気にせず、自由に遊ぶことを大切にしているようです。プレーワーカーやプレーリーダーと呼ばれる遊びを見守る存在がいることも特徴です。

【出典】デジタル大辞泉『プレーパーク
【参考】特定非営利活動法人 日本冒険遊び場づくり協会『冒険遊び場づくり活動団体数の推移』『全国実態調査

佐久穂町八千穂高原のプレーパーク、 さとやまモリニティとは

山や川など豊かな自然に囲まれている長野県東信エリアにも、環境を生かしたプレーパークがあります。佐久穂町の八千穂高原の森の中で週末に開催されるプレーパーク、さとやまモリニティです。

(滝沢さん提供)
さとやまモリニティについて
【場所】八千穂高原の森の中、認定こども園ちいろばの杜の遊び場を主に活用
【対象】赤ちゃんから高齢の方まで
【開催頻度】毎月1・2回
【モットー】自分の責任で自由に遊ぶ
【参加費】不要

年齢を問わずどなたでも参加できますが、小学生の参加が最も多く、未就学児は保護者の同伴が必要です。いざというときの助っ人として、困ったことがあったら気軽に声をかけられる存在としてプレーワーカーが常駐。2021年冬から参加費不要になりました。

「外で思い切り遊べない」小学生からの声がきっかけで、自由に遊べる場を作りたいと思った

プレーパークさとやまモリニティを始めたきっかけや、参加した人たちがどのように過ごしているのかを運営代表の滝沢さんに伺いました。

滝沢卓己(タッキー)
さとやまモリニティ運営代表 
長野県上田市出身。公立の保育園に10年勤めた後、佐久穂町の「森のようちえん ちいろば」へ。現在は森のようちえんから認定こども園となり名称変更した「ちいろばの杜」の副園長を務めています。週末にプレーパーク 「さとやまモリニティ」を開催。住まいは八千穂高原の別荘地。

ーー滝沢さんがさとやまモリニティを始めたきっかけを教えてください。

滝沢: 僕はふだん、ちいろばの杜(以下ちいろばというこども園に勤めていて、子どもたちと長い時間を自然の中で過ごしています。卒園した子どもたちから「小学校は大変」「遊ぶ時間がない」「放課後も遊べない」という声を聞くようになり、気になっていたんです。

ーー小学生になると急に忙しくなるように感じているのでしょうか。

滝沢:僕も「遊べない」と最初に聞いたときは驚きました。都会の小学生が塾や習い事などで遊ぶ時間がないのはイメージできるのですが、比較的ゆったりとした時間が流れている佐久穂町でも、小学生になると遊ぶ時間がないのかと。小学生になることでの生活の変化は大きいのでしょうね。

ーー子どもの数も減っていて、地域によっては近所に遊び友達がいない場合もありますよね。

滝沢:住む場所によっては、放課後に友達と遊ぶことが難しい子もいます。このへんは車社会なので、遊び場へのアクセスの問題もあるでしょう。

平日は学校があるし、週末は家族単位で車で移動することが多い。子どもだけの空間で自由に遊べる時間は、意外と少ないんです。それらを、子どもたちの声から知りました。たとえばドラえもんの世界にある、空き地に子どもたちが集まり遊んでいる光景は中々みられないですよね。

(滝沢さん提供)

ーー子どもたちは、遊べる場と時間をもっと求めているのかもしれないですね。

滝沢:僕は子ども時代、毎日自由に泥だらけになって遊び転げていました。思い切り遊べる場を、今の子どもたちにも作りたいという気持ちが大きくなっていったんです。そんなことを考えている時にプレーパークの存在を知り、ちいろばの遊び場を活用して週末に開催してみようと思いました。2019年にスタートして以降、毎回人が集まってくれるので、遊び場として求められていることを感じています。

(滝沢さん提供)

自然の中で、子どもたちは主体的に考え遊びを選ぶ

ーーさとやまモリニティの運営で大切にしていることはありますか。

滝沢:モリニティは「森」と「コミュニティ」をかけあわせた造語です。森の中に人が集う、自然を生かした遊び場でありたいと思っています。

小学生の参加者には、「何もない状態」「余白」を味わってほしいです。時間割やカリキュラムなど、決められたことが何もないからこそ、自分で考えて、自分で選び、とことん遊ぶことを大切にしています。

(滝沢さん提供)

ーー主体的に考えることで、遊びの幅が広がっていきそうですね。

滝沢:子どもたちが自ら遊びを生み出している姿は、たくましく感じます。 遊びの内容は、季節やその時にいる仲間、その場の雰囲気など偶発的に起こる事柄によってさまざまです。川で生き物を探すといった自然の中での出会いに没頭することもあれば、野球や木工などの遊びに夢中になる時もあります。

(滝沢さん提供)

例えば、野球をしたくても道具がない場合には木の棒を加工してバットにしたり、フライパンをベースにしたりと、代用できるものを考え工夫しています。特定の遊びのために用意されたものがないので、やりたいことを自分たちで形にしていく姿が見られます。

(滝沢さん提供)

ーーみんなイキイキとしていますね!

滝沢:プレーパークのコンセプトに自分の責任で自由に遊ぶというのがあります。責任と言うと冷たく聞こえますが、自由にはそれなりに責任が伴います。危ないことをしたら怪我をするし、人を傷つけてしまうこともある。そのことを理解し、自分で考えて遊んでほしいのです。それは子どもにとって貴重な挑戦の機会であり、学びにもなります。大人はそれを暖かく見守る存在でありたいですね。

自由に遊ぶ空間に毎回あるのは焚き火、火を起こし暖をとって調理する

ーー子どもたちが食材を準備している姿も見られました。お昼ごはんを子どもたちと作っているんですか?

滝沢:決まりが何もないとはいえ、唯一毎回していることが焚き火調理です。去年は毎回違うメニューを用意していましたが、プログラムっぽく感じてしまって。最近は特に考えず、みんなでカレーを作ることが多いです。でも、誰かが「カレーは嫌だ」と言ったら、他のものを作るかな(笑)。

(滝沢さん提供)

ーー遊び場に焚き火があることは、さとやまモリニティの特徴ですね。

滝沢:ここで過ごす時間に焚き火が馴染んでいるのは、火が暖かい存在だからです。子どもたちは誰も焚き火を怖がらないし、遊びと暮らしの両方に結びついています。火を起こし、暖をとって、調理したものを食べて過ごしています。お芋やリンゴなど、好きなものを持ち込んで自由に焼いて食べてもいいんですよ。

さとやまモリニティに来て火起こしにのめり込む人もいます。子どもよりも大人のほうが夢中になることも(笑)。

(滝沢さん提供)

みんなが参加することで、少しずつ変化を続けていく

ーーこれからさとやまモリニティとして実現していきたいことはありますか。

滝沢:続けていくことで、地域にゆるやかに馴染んでいきたいです。このプレーパークは誰が来てもよい場所。ちいろばの園児、卒業生に限定することなく、地域の子どもたちや大人など、誰もが気軽に参加してくれるようになるといいな。

(滝沢さん提供)

ーー最近、参加の方法を少し変えたそうですね。

滝沢:事前の申込みや参加費をなくし運営の仕方を少し見直しました。参加費をやめたのは、お金を理由に来れない子がいないようにという思いもあります。

ーープレーパークさとやまモリニティはどういう存在でありたいですか?

滝沢:ここが、子どもの日常に存在するもう一つの居場所でありたいです。例えば、学校と家庭だけでは行き詰まっちゃう子もいるかもしれない。そういうときに3つ目の居場所があることで、心が楽になったり開放されたりするといいなと思います。

ーー子どもたちの遊び場が少なくなっている時代だからこそ、さとやまモリニティのように自由に過ごせる場は大切ですね。

滝沢:子どもの時の原体験は将来につながっていきます。豊かな森や里山で仲間と好きなように遊んだという記憶が、子どもたちのその先の人生までもを豊かにしていくことを願っています。

(滝沢さん提供)
「今日は何しようかなー?」から始まる、無限の可能性。自分の責任で自由に遊ぶために、必要な分別を自然と身につけていく子どもたちの姿。与えられた環境で遊ぶことが主流になっている現代だからこそ、余白だらけの自然の中で仲間と思い切り遊ぶ時間が、子どもたちにとって、かけがえのない経験になりうることを感じました。

さとやまモリニティは年齢や地域を問わず、どんな人もウェルカムだそうです。八千穂高原で開催される週末プレーパークさとやまモリニティへ参加希望の人はWebサイトをご覧ください。

プレイパークさとやまモリニティ

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