整えすぎないほうがおもしろい! 中古住宅をリノベーションする【前編】

コラム 2021.10.29

「ここ、当たりかもしれない」。
2021年早春、妻の直感により、大きく動き出したある家族の住まい探し。東京から上田市に移住して約1年、株式会社地元カンパニーでシステムエンジニアとして働く堀野晃正さん家族の中古住宅リノベーションに、サンライン編集部が密着しました! このプロジェクトから感じたのは異なるもの同士の掛け算。2021年初秋、リノベーションする前の状態の家に伺いました。

中古住宅探しで重要視した条件とは!?

ーー住む家を考える際、新築を建てる、マンションを買う、中古物件を買うなどいくつかの選択肢ありますが、どうして中古住宅をリノベーションすることになったのですか?

堀野:理由は2つあります。まず1つ目が予算です。僕たちは住居にあまり費用をかけたくないと思っています。家のニーズは、ライフステージで変化するものだからです。例えば、20年後には今8歳の娘も独立していて、家にいないかもしれない。学校が近い必要もないし、そこまで広くなくてもよい。そう考えると、この家は一生住む家ではない可能性があります。だからたくさん費用をかけるのも違うかなと。予算で住居をまかなうと考えたとき、この方法がよいなと考えたのです。

ーーなるほど。では、2つ目の理由は?

堀野:中古住宅に使われている素材の質感や佇まいが魅力的なことです。新築のモデルルームで木材をふんだんに使った物件や、良心的な価格なのに洗練されている物件などいくつか見ましたが、惹かれませんでした。僕たちにはおしゃれすぎて、居心地が悪いんです。やっぱり中古住宅の方が好みだと実感しました。

ーーこちらの中古住宅はどうやって見つけたのですか?

堀野:実はこの家、解体される予定だったんですよ。

ーーえっ!? どういうことですか?

堀野:解体することが前提の家を残したまま、古家付き土地として売られている物件があるんですよ。中古物件扱いでないため、ほとんど土地代のみで買えます。そういう物件を何カ所か見に行きましたが、解体する前提の家だからほとんどは住めない状態です。でもこの家を見たとき、住める! と思いました

堀野:平屋なんですけれど、広さが90平米ちょっとで築56年。空き家になって1年は経っていますが、売り主の方がちょくちょく来て手入れをされていたみたいです。庭の草刈りもしていたそうで、解体される予定の家とは思えないほど状態がよかったのです。

ーーそういうことだったんですね! では、具体的にはどういう売買に?

堀野:更地にした状態で売る予定だったそうですが、そのまま買い取りたいと伝えました。売出価格から、解体にかかる費用(家財の撤去費含む)250万円を引いてもらえたんです。

ーーそういう経緯で中古住宅が手に入ったのですね。

堀野:この家をどのように改築するかと考えたとき、工務店に全てをやってもらうのはもったいないし、費用面や今後手を入れ続けることを考えると、せっかくなら自分たちも手を動かして作ることに加わった方がおもしろそうだと思ったのです。こうした思いから、佐久市のえんがわ商店と上田市のTUGU設計室に相談し、工務店にリノベーションをお願いはするけれど、一部は自分たちでDIYすることにしました。

リノベーションする上で大切にした法則を聞いてみた

実際どのようにリノベーションしていくのかをインタビューしているうちに、彼らが大切にしたい3つの法則があることに気づきました。

法則その1~前家主から引き継いだ物を最大限に活かす~

ーー前の家主の方の持ち物がまだたくさん残っていますね。

堀野:この家には、80代のおばあちゃんが住んでいたようです。解体される予定だったから、タンスやテーブル、食器棚などそのままの状態で残っていましたね。

ーー整理はどのように進めているのですか?

堀野:例えば食器や鰹節削り器、竹細工のかごなど、丈夫で使えそうな物は大事に使っていきたいと思っています。しかし量が多いので、自分たちで使い切れない食器は、会社に持っていってみんなで使っています。

ーー冷蔵庫や洗濯機などの大物家電は?

堀野:まだまだ使えるけれど僕たちは使わないガス台や洗濯機、ベッド、家具は、必要な人に譲るようにしています。家具は古いけれどしっかり作られていて、手入れをしながら大切に使われていたのが感じられ、捨てるには忍びなくて。できれば誰かに受け継いでほしいと思っています。

ーー間取りはどのようにするのですか?

堀野:間取りは大きくは変えません。特に柱はそのまま残します。一番大きく変化させるのは南側の和室二間です。ここは欄間を取って一部屋にし、リビングダイニングとして使う予定でいます。

堀野:キッチンも比較的広いので、半分にしたいと考えています。実はここ、片付けているときに見つけたのですが、奥にちょっとした地下スペースがあるんです。

ーー地下スペース!?

堀野:食器棚の下に、一畳くらいの広さで深さ1メートルぐらい空間があります。野菜の貯蔵などに使われる室(むろ)と言うそうです。ここを中心に、キッチン横は僕の部屋にしたいと考えています。

ーーお庭やカーポートはリノベーションするのですか?

堀野:カーポートの鉄骨部分はそのまま残しますが、屋根ははいで、ツタなど植物を這わせようと思っているんです。娘は鉄骨の部分を使ってブランコを作ってほしいと言っています。庭にはいろいろな木や花が植えられていますが、まずは一年様子を見て、どんな花が咲くのか見てみてからどうするか決めたいですね。

法則その2~古いものと新しいものの対比を楽しむ~

ーー先ほど、えんがわ商店とTUGU設計室に相談してリノベーションするとおっしゃっていましたが、実際はどのように?

堀野:まずえんがわ商店さんにやってもらう部分があります。それ以外の自分たちでDIYする箇所としては、えんがわ商店さんがやり方だけアドバイスしてくれる部分と、費用を払って一緒にやってもらう部分があります。どこをどうするかは、えんがわ商店さんの経験から振り分けてくれます。

ーー具体的にはどこを自分たちで行うのですか?

堀野:1つは壁ですね。この家には、漆喰壁と京壁の両方があります。漆喰壁の大半はそのまま残して、京壁の部分はその上から漆喰を塗ろうと思っているんです。

ーー漆喰壁ですか! 趣ありますよね。

堀野:僕らが塗るとどうしてもムラができたりコテ跡が付いたりすると思うんです。でも当時の職人さん技と自分の技とを見比べるのもおもしろいかなと思っていて。

ーーキレイに統一しようとは思わないってことですか?

堀野:僕、普段から整えすぎていないものをおもしろいと思う傾向があるようです。この家にもそういうおもしろさを入れていきたいんですよね。

堀野:僕が塗る漆喰の壁には、一部壊す漆喰壁の中の土を混ぜてみようと思っています。ちょっと茶色っぽい漆喰になるのかな。えんがわ商店さんの提案を聞いて、やってみたいなと思いました。炭の粉か灰を入れて灰色の漆喰壁もいいですよね。漆喰ではいろいろ実験してみたいです。

ーー他に自分たちで手掛ける箇所は?

堀野:フローリングです。下地だけえんがわ商店さんにやってもらって、板を貼るのは自分たちでやります。あとは断熱ですね。

ーー築56年の家だと、やはり寒いのでしょうか?

堀野:寒いみたいです! 断熱構造になっていないので、室内の気温がほぼ外気温と一緒になるのではないかと想像しています。壁は壊さない限り断熱施工できないようなのでそのままにして、床と天井には断熱材を入れます。

ーーご自身でどのように?

堀野:床はフローリングを貼る際にウレタンのような板状の断熱材を敷き詰めていきます。天井にはグラスウール(ガラス繊維で作られた綿状の断熱材)を敷き詰めていくことにしています。

ーーフローリングにすると家の雰囲気も変わりそうですね。

堀野:そうですね。和ダンスやふすまは、フローリングに変えた時の雰囲気に合わせてペンキを塗ろうと思っています。

法則その3~夫と妻の思いを交差させて空間を作る~

ーーリノベーションする上で、夫婦での共通認識にようなものはあるのですか?

堀野:整えすぎない、おしゃれすぎない、でしょうか。僕たち、きれいな家や便利な家に住みたいわけではなくて、おもしろい家に住みたいよねと話しています。奇抜なデザインじゃなくてもいいから、普通でいて、ちょっと変った組み合わせがおもしろいなと思っているんです。

ーー古いものと新しいもの、職人の技術と住む人の手仕事。確かにいろいろな組み合わせが生まれそうですね。

堀野:妻は、居場所がたくさんある家がいいと言っていますね。キッチンも料理をする人の居場所となるよう、オープンにせず壁で仕切りを作ります。ダイニングには、ペレットストーブ、子どもの勉強スペース、大きなソファにロールスクリーンを設置する予定です。炎を見る人、勉強する人、ソファに座る人、それぞれ自分の好きな居場所で寛いでるというイメージです。

失敗したっていい。「今」を大切にしたいから

ーー家の購入は人生でも大きな買い物になるのではと思うのですが、堀野さんからは肩肘張らない、余裕が感じられました。

堀野:そうですか? それに通じるのかわかりませんが、この家については、失敗してもいいと思っています。

ーー失敗!? どういうことですか?

堀野:リノベーションなので、そもそも制約があるんです。今の状態に合わせて何かするしかない。失敗したらしたで、またやり直せばいいんです。

ーーすごくフレキシブルな考え方ですね。

堀野:失敗したとしても、次の家に活かせばいいと思うんです。一生暮らす家と決めてしまうと、そうはできなかったかもしれません。だから僕たちは合言葉のように「1回目の家だから」って言っています。今の自分たちにとってちょうど良いと思える家に住みたいと考えています。

前家主、中古住宅、そして夫婦ふたりのやりとり…共通するのはあるものにただ加えるのではなく、掛け合わせの妙。そう、それはまるで掛け算のよう。3+3=6、ではなく、3×3=9。乗算するように広がる可能性や深みを感じました。インタビューを終えた数日後の2021年9月中旬、いよいよ工務店の作業が開始され、堀野家リノベーションが本格的に動き出しました! 堀野さんが実際に手掛ける様子は後編にお届けします。

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