白樺が生えていない白樺高原になってしまう!? 美しい景観を守り続ける「立科町の白樺林保全プロジェクト」

コラム 2021.08.31

長野県立科町。ここには国内でも有数の白樺林が広がる白樺高原があります。美しい景観を守るため、保全プロジェクトに取り組んでいるグループに密着。取り組みを始めたきっかけや白樺の魅力、活動の様子などを取材しました。

立科に白樺林を守っている人たちがいる

みなさんの頭の中でイメージする長野県らしい景観に、このような風景はありませんか?

白い樹皮が特徴的な白樺。群生している様子は、緑と白の美しいコントラストを生み出します。実は日本国内での主な群生地は、北海道と長野県。そのため長野と言えば白樺は間違いではないのです!

当たり前のように広がっているこの景観を、100年先の未来の子どもたちにも見せてあげたいと、保全活動に取り組んでいる人たちがいます。立科町の女神湖を拠点に活動している信州白樺クラフト製作所のみなさんです。

(渡部さん提供)

今回は代表の渡部ゆかりさんにお話を聞きました。埼玉生まれの渡部さんは、東京で人事系コンサルティングやソーシャルビジネス支援などの企業に勤めたあと、2016年にパートナーとともに長野県立科町へ移住。3人の子どもを育てる傍ら、2020年信州白樺クラフト製作所を立ち上げます。

白樺高原なのに白樺がない時代があった!?

ーー渡部さんが白樺に興味を持ち始めたきっかけはなんでしたか?

渡部:もともと木製品は好きだったんですが、白樺に興味を持ち始めたのは立科に移住してからですね。白樺の特産品で地域貢献できるといいなと思ったのが始まりでした。なので、最初は一人で白樺の樹皮を使った工芸品を作っていました。しかし、白樺について調べていくうちに、さまざまな課題を知ることになります。

渡部:白樺高原と呼ぶようになったのは1960年代からで、比較的新しい観光地と言われています。名前の通り、当時は白樺がたくさん植生していたのに、1980年代に入り白樺が全然ないという状態になってしまったそうです。

ーー白樺高原なのに、白樺がない!?

渡部:白樺の寿命は短く50~70年。1960年代に最盛期だった白樺林が、寿命を迎え、次々と倒れてしまったのでしょう。そこで、1990年代後半から当時の町長を中心に、一気に植樹を始めます。7年間で8万本を植えたそうです。

ーーでは、今ある白樺林は当時植えたものなんですね?

渡部:1日に200人を動員した日もあったようです。そのおかげで、現在はたくさんの白樺が私たちを包み、観光のお客様を迎えてくれています。一方で、30年近く経った今は、自生する白樺と植樹した白樺が密集し、太く大きく成長することがきないという課題を抱えています。

長野県道40号諏訪白樺湖小諸線沿いの白樺群生地

渡部:細くて弱い白樺は、台風などの強い風を受けると簡単に倒れてしまいます。そして、今ある白樺もあと20~30年すれば寿命を迎えるため、また「白樺のない白樺高原」に逆戻りしてしまう。それを防ぐためには、今から保全のための整備を始めなければならないのです。

自然倒木した白樺(渡部さん提供)

渡部:自分一人ではこの課題に挑めないと考え、2020年に信州白樺クラフト製作所を設立し、仲間を集います。スタート時は7名でしたが、2年目となる2021年に仲間募集の説明会を開催したところ、約80名にご参加いただきました。現在は20名の仲間とともに活動しています。

葉、樹皮、根っこまで。白樺はすごいんです!

ーー具体的な活動について教えてください。

渡部:私たちは白樺林を継続的に保全するとともに、新たな特産品を作ることで、この地域での仕事の創出にも貢献したいと考えています。白樺の間伐や植樹は今年度(2021年)からスタートしましたが、加工品の製作は製作所設立当初から続けています。

(渡辺さん提供)

渡部:白樺は幹が細いので、材木としての利用価値は低いと考えられてきました。でもね、白樺ってすごいんですよ! 葉や樹皮、枝や幹、樹液や根っこ、上から下まで全部活かせるんです。

ーーこれは樹皮で作った工芸品でしょうか?

渡部:樹皮を剥いで、テープ状にしたものを編んで作ります。樹皮に含まれる成分には抗菌・防カビ効果があり、水にも油にも強いので、生活用品に適しています。他にも着火剤草木染めの材料として利用できるんですよ。は工芸品の強度を増すためのかがり編みの素材として、は最近のサウナブームでヴィヒタとしての活用法が注目されていますね。

ヴィヒタとは若い枝葉を束ねたもので、フィンランドではサウナ内で全身を叩くようにして使用する。部屋に吊るせば芳香も楽しめる。

ーー樹液もおいしく飲めると聞きました。

渡部:そうなんです。ミネラルが豊富で、ほんのり甘みも感じられます。樹液を使った化粧水も増えてきていますね。「柔らかくて弱いから、木材として価値がない」「割り箸や爪楊枝としてしか使い道がない」と言われていた白樺ですが、特性をしっかり活かせば、新たな信州のブランドを作れると確信しています。

美しい白樺林をずっと残していくために

ーー活動をする上で、大変なことはありますか?

渡部:白樺林を保全するためには、間伐や植樹といった整備が必要です。そこには設備や運搬などの費用が発生します。いずれ白樺材の加工品を販売した利益を、保全に還元する循環サイクルを定着させていきたいと考えていますが、現時点では賄いきれていません。そこで立科町と協力して、ガバメントクラウドファンディングにチャレンジしています。

ーーふるさと納税での寄付なので、県外にいる人でも気軽に申し込めそうですね。

渡部:寄付をしてくださった人からは、「白樺高原の美しさを守り続けてほしい」といったメッセージもいただいていて、大変心強いです。みなさんの思いが、白樺高原の景観を守ることにつながるので、たくさんに人に協力をいただけるとうれしいです!

(渡部さん提供)

ーー加工品の製作活動も、定期的に行われているそうですね。

渡部:はい。毎週木曜・金曜に活動しています。白樺の皮を剥ぐ作業や、テープ状に切る作業、編む作業などメインではあるものの、ものづくりが好きな人、新しいことにチャレンジしたい人、交友関係を広げたい人など、私たちの活動に興味を持ってくださるならどなたでも参加OKです。活動の様子はInstagram、noteなどをご覧ください!

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「なくなってしまってその価値に気付くでは遅い」ということを、インタビューを通してずっと考えていました。私たちが当たり前と思っているモノやコトも、すべてそれを守るために努力をしている人々がいる…。長野県らしい風景を後世に残すために、みなさんもちょっとしたアクションから始めてみませんか?

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