まちづくりも音楽とお酒も。その土地のテロワールが出るはずだから~佐久市 柳澤拓道さん~

インタビュー 2021.09.06

2020年4月にオープンした、佐久市のコワーキングスペース&シェアオフィスワークテラス佐久。芝生やテント、アウトドア用チェアなどが置かれ、室内なのにキャンプ場にいるかのような開放感を味わえる空間です。

ここでまちづくりコーディネーターとして、さまざまな取り組みに携わっている柳澤拓道さんが今回の主人公。祖父の故郷が佐久市の臼田だったという縁で、2020年に東京から家族で移住をしてきたそうです。

歴史にまちづくり、音楽にワインなど、興味の範囲が広く、造詣が深い…。お話を聞いていくと、それぞれつながりがないように見えて、柳澤さんの中には明確な共通項があることに気付きました。今の仕事にも関係する「まちづくり」の話から伺っていきましょう。

まちの特徴を知るなら古代から…!?

ーー東京では都市再生機構(UR)で都心のまちづくり事業に携わり、現在はワークテラス佐久の「まちづくりコーディネーター」でいらっしゃるとのこと。学生の頃からまちづくりに興味を持っていたんですか?

柳澤:大学では哲学や社会学を学びました。なので、まちづくりに関しては建物という切り口ではなく、「インフラをどう整えるか」に興味があったんです。「人の生活に欠かせないものをつくる」という観点から、住まいやまちづくりに関する仕事を選びました。

ーーなるほど。社会学の観点からまちを見ているんですね。

柳澤:歴史などの社会科目は昔から好きでした。ぶり返したように、今佐久の歴史を調べています。

柳澤:日本史や世界史も好きなんですけど、もうちょっとローカルなものを知りたいと思ったんです。せっかく移住してきたんだし、この地域で仕事するなら自分で調べてみようと。

ーー分厚い本がたくさんですね!

柳澤:まちづくりに関する取り組みで、「商店街を復活させたい」「30年前のような活気を」って、よく聞く話だと思うんですけど、僕は少し近視眼的だと感じています。100年前、300年前、500年前はどうだったのかなと。

ーーもっと遠くに視点を置くんですね。

柳澤:僕はさらにさかのぼって1000年、2000年前から歴史を勉強しています。それぐらいしないと、その地域の独特のものは見えてこないし、差別化できないんですよ。佐久の歴史を勉強し始めたものの、まだ古代です(笑)。でもね、この地域に古代があるとは思っていなかった。縄文時代の遺跡もあるんですよ。

ーー知らなかったです。あまり歴史に興味なくて…。

柳澤:佐久市の隣の北相木村や川上村には、狩猟採集生活の跡がちゃんと残っています。

ーーへぇ…!

柳澤:稲作が始まると佐久の平地の方に人が移っていきます。要は山から降りてきて、平らなところで稲作をするんですよね。

ーー佐久市街地は盆地だから佐久平とも呼ばれますよね。

柳澤:おもしろいでしょ、人の動きが見えて。古代から中世にかけては東山道という京都・奈良につながる道ができ、江戸時代には中山道が。昔からこの地域は、京都とも江戸ともつながっていたんです。この地域の特産と言われていた米や馬が、地域だけで完結せずに運ばれていた。この地域の豊かさが都に開かれていたんですよ!

ーー…すごいです。柳澤さんの熱量が!

柳澤:現在東京と佐久平は、新幹線で70分。人が往来していた歴史がこの道を作ったんだと考えると、ワクワクしますよね! 歴史が今につながっていることを感じていたいんです。

テロワールで考える、まちづくりと音楽とお酒

ーー柳澤さんのSNSで写真を拝見しましたが、チェロはいつから?

柳澤:中学3年生の時からやっています。実は歴史に目を向け始めたのは、音楽が先だったかもしれないです。最初はモダン・チェロから始めたんですが、バロック・チェロにはまっちゃって。
というのも、チェロといえば、あらゆるチェリストが聖典と呼ぶバッハの「無伴奏組曲」。それを聴いて練習していく間に、バッハが生きていたバロック時代の楽器で演奏したいと思うようになっちゃったんですよね~。

(柳澤さん提供写真)
1600年から1750年までの150年間は「バロック音楽の時代」と呼ばれている。バロックの歴史は主にイタリアとフランスから始まり、ドイツにも移入されて盛んに。ドイツで生まれたバッハは、バロック音楽を代表する作曲家のうちの一人。

楽器には、作曲家が生きていた時代に演奏されていたピリオド楽器(オリジナル楽器)と、現代の要求に合わせて改良されたモダン楽器がある。バロックの時代のチェロは、羊の腸で作られたラムガットを弦に使っていたが、現在はスチール弦が主流。

柳澤:スチール弦でバッハを弾くのと、ガット弦でバッハを弾くのとでは、全然違うんですよ。

ーーそんなに違うんですか!?

柳澤:スチール弦は力を入れて弾いてもきれいな音がでます。大きなホールで響かせるための、楽器の進化ですね。ガット弦は、初めて弾くと本当に音が出ない(笑)。だけれど、スチール弦にはない豊かな響き、複雑な音が魅力です。

ーー当時使われていた楽器で演奏するからこそ、バッハが表現したかったことが見えてくる?

柳澤:そう。「これだ!」って思っちゃったんですよね。バロックにも、イタリアバロックとフランスバロック、ドイツで発展したバロック、それぞれ違うんです。それぞれの文化や歴史を知って演奏している人と、そうでない人では、かなり差があると感じます。

ーーうーん。同じ野菜でも土地が違えば味が違うのと、同じ考えかたでしょうか?

柳澤:ワインのテロワールじゃないけど、その土地の良さとか個性みたいなものがあるのかな。

テロワール(Terroir)とは、「土地」を意味するフランス語「terre」から派生した言葉。 ワイン、コーヒー、茶などの品種における、生育地の地理、地勢、気候による特徴を指す。

ーー魅力を知るためには、他との違いに目を向けなければいけない。先程お話された、まちづくりの差別化に紐付いているなと思いました。

柳澤:グローバル化が進むと、地域性やその土地に根付いたものは、少し失われてしまうのではないかと考えます。極端な話、佐久出身の演奏家がいたとして、その人からは絶対佐久のテロワールがでるんですよ。

ーーその考えかた、おもしろいですね!

柳澤:同じ演奏していても、佐久っぽいとか(笑)。

ーーテロワールと言えば、柳澤さんはお酒にも詳しいですよね?

柳澤:実はお酒苦手だったんです。妻と飲むようになったのがきっかけで、TPOや料理に合わせてお酒を選べるようになりたいなと思い、ワインソムリエの勉強から始めました。

ーー佐久には日本酒の蔵が13もありますしね。

柳澤:おいしいですよ、佐久の日本酒。うーん、やっぱりテロワールだなぁ。この土地のよさや地域性を追求した先に、にじみ出てくるものがあるんですよね。

僕のフィールドはどこにある?

ーーまちづくりに携われていた柳澤さんが、移住先として佐久市を選んだ理由を教えてください。

柳澤:子どもが生まれてから、自然の中で遊ぶことが多くなりました。僕はもともとアウトドアに興味ないんですけれど(笑)、子どもには思いっきり自然を楽しんでほしいなと。そこから移住を考え始めましたね。

ーーなぜ佐久を選んだんですか?

柳澤:僕の母方の祖父が佐久の臼田に住んでいたので、なじみのある場所だったこと。また、妻の実家が富山なので、北陸新幹線で東京と富山の両方にアクセスしやすい場所という観点で選びました。

ーー地方のまちづくりに興味はあったのですか?

柳澤:東京にいた頃、首都圏の開発以外にも、地方の開発に携わっていたことがありました。新宿にいながら地方に関わるといった状態だったので、正直、その土地のことをわからないまま進めていました。
ここの地域に関わっていると断言できないことにモヤモヤして…。もっと地域に入り込みたいなと思っていました。そんなとき、仕事の関連で通っていたスクールで、「あなたのフィールドはどこにあるんですか?」と問われたことがあったんです。あれ、僕ってフィールドないなと…。

ーー生まれ育った東京を自分のフィールドとは思わなかったんですか?

柳澤:うーん、確かに。今自分で話していても不思議です。それなりに人とのつながりもあって、好きなことはしていたんですけれど、「この地域が好き」「この地域を良くしていきたい」みたいな気持ちは強くなかったですね。

ーー移住してから、変わりました?

柳澤:ここに来てからのほうがたくさんのつながりもできたし、濃いです。ワークテラス佐久の周りには移住してきた人やUターンの人が多いので、価値観が似ているし、ある程度同じ方を向いて話せると感じますね。

ーーどういったところでそう感じますか?

柳澤:やはり仕事です。どこでも仕事はできる自由に働けるをベースに話せるのはとてもいいですね。

ーー子育てという点ではどうですか?

柳澤:保育園だけをとって話しても、園庭は広いし、当たり前のように畑や田んぼがありますし。子どもが思いっきり走り回れる環境は、とてもいいなと感じています。

子どもと一緒にキャンプ(柳澤さん提供写真)

柳澤:それに、こちらにいるみなさんは当たり前のようにされていますけれど、仕事帰りに子どもを迎えに行って、そのまま温泉に行ってご飯を食べて帰ってくるというもの。東京では絶対考えられない過ごしかたですね。

ーー東京では移動だけでも大変でしょうね。

柳澤:歩いていける距離に銭湯があったとしても、混んでいるしご飯は食べられないし。ましてや電車に乗って移動なんて本当に大変ですから。行くほうが疲れてしまう(笑)。

ーーそういった時間の過ごしかたは、信州ならではですよね。

柳澤:飲食店も、子育て世代にフレンドリーだなと思いました。ラーメン屋で考えても、店内が広くてお座敷席もある。子連れで行くと、当然お座敷席に案内されて、子ども用の食器が出てくる。東京ではラーメン屋に子どもを連れて行きにくいですもん。佐久、いいなって思います。

(柳澤さん提供写真)

おもしろいことにチャレンジできて、循環が生まれるまちに

ーーこれから取り組んでみたいことは?

柳澤:今年度からスタートしているプロジェクトに、地域複業プラットフォーム「YOBOZE!(ヨボーゼ)地域複業最前線」があります。地域、企業、行政が抱える課題を複業案件として切り出して、首都圏にいる移住検討者に、自身が持つスキルを生かしてて関わってもらうというものです。
潜在的な移住希望者層や、地域に興味があって関わってみたいと考えている人とマッチングができたらいいなと考えています。熱意とスキルあふれる複業ワーカーと一緒に、経営課題の解決や新しい事業にチャレンジしたい佐久地域の企業のかた、ぜひご連絡ください!

道の駅「ほっとパーク浅科」で演奏したときの様子(柳澤さん提供写真)

ーー最近、Sakk Porano(サックポラーノ)の活動も盛んですね。

柳澤:Sakk Poranoは音楽を通して、アートを佐久の大自然・地域資源に解放するをテーマに活動しているアートプロジェクトです。

ーー田んぼやリンゴ畑、道の駅などでセッションされているんですね。写真がすてき。

柳澤:僕は音楽が好きだから、もっとまちの中にアートを作っていきたいと考えています。近くには軽井沢もありますし、いいものを作れば、きっとたくさんの人たちが来てくれると信じています。

ーー自身のフィールドにしたいと考えている佐久というまちが、今度どのように活性化していくとよいと考えていますか?

柳澤:新しく来た人がおもしろいことにチャレンジできる環境があって、いろいろな循環が生まれるといいなと思います。今、この地域への移住が増えていますが、コンテンツの数が少ないと、どこに行っても行列という状態になってしまいます。
消費する人だけじゃなくて、新しいコンテンツを作る人も増えないと。そういうことにチャレンジする人にどんどん来てほしいと思いますし、それを応援できる仕組みが必要だなと思います。

ーー多様性は生まれそうですね。

柳澤:このまちならできる気がしますね。行政も比較的柔軟だし、人もたくさん集まってきている。おもしろいことがどんどん生まれていくといいですよね。そうしたときに、じんわりと味わい深いまちになっていくんだろうなって気がします。

その土地の地理、地勢、気候による特徴を指すテロワールという言葉。そういった観点でまちづくりを見ていくと、これまでとは違ったまちの様子が見えてきそうです。柳澤さんが行われている取り組みに興味のある人は、ぜひワークテラス佐久へお問い合わせください。

柳澤さん、ありがとうございました。

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