「小諸は宝物が溢れている町」駅を中心に人が集う場所をつくりたい~小諸市 金山裕美さん~

インタビュー 2022.03.29

2020年、東京都町田市から小諸市に移住した金山裕美(ひろみ)さん。小諸駅舎内にかつて使われていた「みどりの窓口」を改装し、父の哲也さんと共に電源カフェ「小諸駅のまど」を運営しています。東京では、複数の企業で人事や採用に携わっていた金山さんが、なぜ小諸という町で畑違いの飲食業を選択されたのか。小諸への移住やカフェをオープンした経緯、小諸市が持つ魅力、これからチャレンジしたいことなどを伺いました。

人事の魅力に取りつかれた東京時代。人好きの根底には家族の存在が

――小諸に来るまではどういったお仕事をされていたのですか?

金山:これまでは東京の複数の企業で人事の仕事をしてきました。働いていく中で「いつか人事制度の企画立案に携わりたい!」という夢を持っていました。簡単な仕事ではないし、大変なことも多いのに、なぜかおもしろみを感じていたんです。

――人事の仕事が好きだった理由はありますか?

金山:たくさんの人と関わることができるからでしょうか。人事は、人の成長や変化をそばで見守りながら、組織の活性化を図ることができる仕事。それがとてもおもしろいです。

東京の企業等で人事やイベント司会などに携わっていたころの金山さん(金山さん提供)

――人と関わることをおもしろいと感じる。この価値観を形成した原体験はありますか?

金山:家族のあり方がかなり大きく影響していると思います。金山家は、独特な文化がある家でして(笑)。何でも一つのチームになって行う感じだったんです。家業が住宅のリフォーム業だったのですが、父を中心に母や祖母、そして私はもちろん、ご近所の方や職人さん、アルバイトのみなさんまで、みんなで一緒にプロジェクトに取り組むというスタンス。小さい時から、何をするにもチームで乗り越えてきました。

――家族での共同作業が多かったのですね。

金山:総力戦みたいな感じです。そのような環境のせいか、父や母のさまざまな顔も身近で見ることができました。家にいるときの顔、仕事をしているときの顔、それ以外の顔も。人間にはいろいろな役割があって、一人一人が多面的だということを、家族や地域の方との関わりを通して体感してきました。この原体験が、人への興味、人事への関心につながっていったのかもしれません。

――東京で人事の仕事にのめりこんでいた金山さんが、今は小諸でカフェを営んでいらっしゃる。どういった変化があったのでしょう?

金山:新卒からお世話になった会社で成長し、人事制度の構築に携われる機会を目指して京都と町田の2拠点生活をしていました。週末は家族のいる京都、平日は会社のある横浜と、移動しながら励んでいました。ただ、祖母の介護と母の看護が同時に始まったこともあり、考えた末にやむなく離職。人事の道をここで1度断念しました。

二人を見送った後、残された父と私は、改めて家族関係を築くために、何か一緒に取り組めるといいな、と考えたんです。ちょうどそのタイミングで、小諸にある祖母の実家だった古民家を取り壊す話がありました。父は取り壊したくないと考えていたこともあり、古民家を二人でリフォームすることにしたんです。

リフォーム中の古民家(金山さん提供)

金山:私は、人事の仕事という夢も忘れられなかった中、運よく当時はまだ珍しい働き方だったリモートワークを併用しながら人事の仕事に携われる機会を得ることができました。そして半分東京、半分小諸の2拠点生活をスタートすることになりました。

家族が豊かに暮らせると直感した小諸での暮らし

――2拠点生活をしながら古民家のリフォームを行ったとのことですが、どのような変化がありましたか?

金山:東京と小諸を往復し、3年をかけてリフォームに目処が立ったものの、いくつか課題も感じていました。一つは、小諸に暮らす人たちや町の情報を深く掘り下げて取得できなかったこと。もう一つは、古民家の維持の問題です。それらの課題に対して、さまざまな角度からのヒントを得られればと思い、自分なりに調べてみたところ、おしゃれ田舎プロジェクトという取り組みに出会いました。

――空き店舗や空き家が目立つようになった小諸を、若い人たちが出かけたくなる町にするため、商人と行政職員がタッグを組んで地域とお店のつながりを生かしていく企画ですよね。

金山:そうです。具体的には空き家を活用した起業支援によって、町を元気にしようというもの。このプロジェクトを通じて、今すぐでなくても古民家の活用に役立てる情報に出会えたらと思い、説明会に飛び込んでみました。そこで、ここ(小諸駅のまど)の空き店舗情報に出会ってしまったんです。実は小諸駅の駅舎内にある、元はみどりの窓口だった場所なのです。

改装前の「小諸駅のまど」(金山さん提供)
小諸駅はかつて、信越本線の駅として特急「あさま」全列車が停車する長野県東部の拠点駅でした。しかし、1997年に長野新幹線(現・北陸新幹線)が開通し、東京直通の特急列車が廃止されたことにより利用客は減少。2019年にはきっぷ販売窓口「みどりの窓口」を廃止しています。 

――みどりの窓口だったのですね!

金山:そうなんです!乗り鉄の父はこの物件情報を知って大興奮(笑)。私としても、ここでお店を開けばたくさんの情報が得られて、リフォームした古民家をどう活用・維持していくかを考えるきっかけになるだろうと思いました。また、小諸の人とのつながりもできるだろうなという期待もありましたね。

そして何より、父が元気なうちは2拠点居住でもいいかもしれないけれど、私も年を取ったあとどうなるのか考えると心配でした。健康寿命という観点で捉えると、古民家以外にも父と一緒にカフェの経営に取り組むことで、私たちは元気に暮らせるという直感が走ったんです。リスクも大きいだろうし、収入も減るかもしれないけれど。もともと週の半分はリモートワークをしていたこともあり、カフェの経営と同時に完全移住も決意しました。

元みどりの窓口だった場所にオープンした「小諸駅のまど」(金山さん提供)

――カフェはどういったコンセプトでつくられたのですか?

金山:2拠点居住をしてきた経験から、小諸駅の周りにリモートワークができる場所が少ないと切実に感じていました。仕事だけではなく観光という視点で見ても、スマホの充電をする場所が駅舎内にはありませんでした。だからWi-Fiや電源が使えて、ひと息つけるカフェというコンセプトでつくっています。

「小諸駅のまど」の店内(金山さん提供)

ワーカーだけじゃなくて、観光客や近所の人、お迎えを待つ学生さんなど、さまざまな人が利用できる場所にしていきたいです。駅長さんの応援もいただき、店内には信越本線時代の看板や、昔の小諸駅に設置していたものなどを展示して、ちょっとレトロな小諸の雰囲気を楽しめる空間になっています。

小諸は宝物に溢れている。暮らし始めて感じた町の一体感

――実際に移住してみてどう感じましたか?

金山:小諸の前にも2拠点生活をしていたからか、特に抵抗はありませんでした。実家や田舎という存在が希薄な私にとって、移住は「離れる」とか「別の道を行く」という印象よりも「定まる」「統合する」という方がより近い感覚かもしれませんね。

――町の印象としてはどうですか?

金山:首都圏などでは、よほどのことがない限り自分のパーソナルスペースに対して周りが影響してこないというか、交じり合わないような不思議な感覚がある一方、小諸では、自分の居場所と周囲の人が交じり合っていくような印象を受けています。東京ではカフェに足を運んでも店員さんになかなか覚えてもらえないこともありますよね。人というよりも空間に馴染んでいくような感覚でしたが、こちらでは空間だけでなく、人や歴史ともつながっていけるような気がしています。

「小諸駅のまど」では地元で栽培された野菜なども販売している

――さまざまな場所で暮らしたからこその気付きですね。

金山:町ごとにそれぞれのよさがあると思いますが、小諸という場所でみなさんが当たり前のように行っている営みが、私には貴重な体験になることもあります。学生さんが挨拶を返してくれたり、お店の人が声をかけてくれたり、父を気にかけてくれたり。そんな時間を過ごせるのはとてもありがたいなと思っています。

――小諸の町が持つエネルギーは、何によって生まれていると感じますか?

金山:高原の城下町だから、でしょうか。気概を持って努力してきた先人たちがいて、その思いが脈々と受け継がれてきた息吹を感じられるのは、魅力的だと思います。

小諸城 大手門

――なるほど。

金山:また、昔から町を支えてきた人たちと一緒に、新しいことに挑戦して地域の課題を突破していこうとしている小諸市のみなさんの力が大きいと感じます。私にとっては「おしゃれ田舎プロジェクト」がまさにそうでしたが、他にもさまざまな団体や個人のみなさんが活躍していると感じています。

――町全体で地域を盛り上げようというチームワークですね。

金山:立場や役割の違いはあっても、一緒に小諸を盛り上げようとする未来志向の心意気こそが最近「小諸がアツい!」と言われる理由なのではないでしょうか。互いの活動を紹介し合ったり、一緒に活動したりする中で、「小諸駅のまど」もみなさんに応援していただいてようやくここまでくることができました。本当にありがたいことだと思います。

――小諸のみなさんの熱量が伝わってきますね。

金山:そうですね。試行錯誤しながらも前を向いていく。文化、歴史、自然、街並み、そしてここに暮らすみなさんと交流する時間すべてが宝物です。

「小諸駅のまど」を中心に賑わう町づくりを

――これから小諸でどんなことをしていきたいですか?

金山:小諸周辺の魅力を発信する活動はこれからも続けていきたいです。特に、新しい挑戦をしている、物事の捉え方がおもしろくてすてきな人たちの存在をお伝えしたい。「小諸駅のまど」を通して情報を提供し、それを受け取った人が「小諸ってなんだかアツいな」「自分も何か挑戦してみようかな」と思ってくれたらうれしいです。

――「小諸駅のまど」が小諸のハブになりそうですね。

金山:駅に併設されていることも大きなポイントです。小諸駅周辺は昔から交通の要所でもありましたが、車社会になった今、あえて駅に人が集まることでもっと町が元気になるのではと思っています。駅周辺に自然と人が集まる、そのための役割や仕組みづくりを担っていきたいですね。

小諸駅構内に展示された「浅間国際フォトフェスティバル2021」の作品

――たくさんの人で賑わう小諸の町を想像すると、とてもわくわくしますね。

金山:駅から歩ける距離には新旧さまざまなお店がある他、ゆったりとした雰囲気のガーデンもあるので散歩もおすすめです。懐古園内にはレトロでこじんまりとした遊園地や動物園もあり、家族で楽しめます。将来は今以上にさまざまな人が一緒になって楽しめる町になると確信しています。



取材中もたくさんの人が通りすがりに金山さんと挨拶を交わす姿がとても印象的でした。「小諸駅のまど」は、訪れた人がホッと安心できて元気になる小諸のパワースポットのよう。駅を中心にたくさんの人が集い、地域のよさを生かしながら新たな挑戦をしていくこれからの小諸が楽しみです。

金山さん、ありがとうございました!