地方で暮らすと消防団に入らなければいけない?地域を守る消防団の活動について聞いてみた
地域の消防力・防災力において重要な役割を担う消防団。地方で暮らしていると、消防団の活動を目の当たりにしたり、近所の人が加入していたりと、とても身近な存在として感じられます。一方、都心部から地方に移住をしてきた人の中には、消防団になじみがない人も多いのではないでしょうか。
そこで今回は消防団について、実際にサンラインエリアで消防団員として活動をしていた人たちの声を交えながら紹介します。「地方では消防団に入らなければいけないの?」といったうわさの真相にも迫ります。
「自らの地域は自らで守る」消防団とは?
消防団は、地方だけの組織ではなく東京など首都圏にも存在しています。消防団とは、消防本部や消防署と同様、消防組織法に基づき、それぞれの市町村に設置される消防機関のこと。 消防団員は他に本業を持ちながら、自らの地域は自らで守るという精神のもと、地域における消防防災のリーダーを担い、住民の安心と安全を守っています。
【参考】長野県『長野県の消防団』
消防団の入団の資格とは? 地方に住むと必ず加入しなけらばいけない?
地方に行くと消防団活動が活発な地域が多いため、「消防団って必ず参加しなきゃいけないの?」と不安に感じる人もいるかもしれません。実際には、消防団の参加は強制ではありません。入団資格は、市区町村ごとの条例で定められていますが、一般的に18歳以上であること、またその市区町村に居住(または勤務・通学)していること。入団を自ら希望した人が、非常勤特別職の地方公務員として活動しています。
長野県内では77市町村すべてに消防団が設置され、約34,000人の消防団員が地域の安全・安心のために日夜活動しています(※2019年4月現在)。最近では男女共同参画の流れを受けて女性消防団員数も増加しているそうです。
【参考】長野県『長野県の消防団』
現役消防団員、元消防団員から実際に話を聞いてみよう
ここからは実際に消防団の経験がある2人から、経験談を聞いてみたいと思います。
南相木村で女性消防団員として活躍 栗林綾香さん
ーー栗林さんは消防団員として活動していたとお聞きしました。
栗林:はい、消防団員でした! 私は以前、南相木村の村営住宅に住んでいたのですが、当時は住宅入居に消防団に加入という条件があったんです。人口の少ない村なので「私でお役に立てるなら」と思い入団しました。
ーーきっかけは村営住宅の入居条件…。興味深いですね!
栗林:入団したときには女性隊員がいなかったんですよ。その後仲間が加わりうれしかったです。救護班とラッパ班に所属し、約3年間活動していました。
ーー消防団のラッパ班とは何ですか?
栗林:消防団のラッパ班は、もともとは有事の際にラッパの音で指示を出す役割を担っていたそうです。今は無線や携帯電話があるため、現場でラッパの出番というのはあまりないです。どちらかというと消防団をPRする役割を担っており、イベントで吹奏するなどしています。私はトランペットと打楽器の経験があったことから、ラッパ班の小太鼓担当をしていました。
ーー実際の消防団の活動はどうでしたか。
栗林:春に操法(※1)の大会や、年に1回村内で消防団の発表などがありました。また消火訓練活動も定期的に行っていました。消火訓練では、直接村人に指導をすることも。ラッパ班所属とはいえ、基本的な消防指導は日頃の訓練によりできるようになりました。
(※1)操法:消防操法の意味。消防団員は、火災消火のため、消防ポンプ車や小型ポンプの取扱い及び操作の手順を習得する訓練を行っている。消防操法は全国規模での大会も実施されている。
ーー消防団に入ってよかったことはありますか?
栗林:移住者だったけれど、消防団に入ったことで村の人に顔を覚えてもらえたことがうれしかったです。小さい村の役場で働いていたので、村に溶け込むきっかけになったように思います。
ーー実際に火災現場へ出動することもありましたか?
栗林:実は在団していた約3年間、出動の機会は1度もなかったんですよ! 消防団は火災や災害、人探しなどでも出動要請がくるのですが…。まぁ、何もないことが一番ですから、よかったのかもしれません。
緊急の出動はなかったけれど、消防団は村の安全や安心を守るために必要だと常日頃から思って活動していました。山間にある村は、消防署がすぐに駆けつけることが難しい場合があります。そのため、村民に防災知識をつけてもらうことが重要です。村の自衛組織として、まずは消防団が動かなければならないという意識は、やりがいにつながっていました。
持続可能な消防団のあり方を模索する 斉藤達也さん
ーー消防団に入団したきっかけを教えてください。
斉藤:上田に戻ってから新聞やニュースで消防団の人手が足りないことを知り、興味を持ちました。周りの人に「消防団は地域にとって大事だから持続可能な消防団のあり方を考えたい」と相談したところ「まずは自分が入団したら?」と言われたんです。「その通りだ! 」と思い入団しました。
ーー実際に消防団に入団してみていかがですか?
斉藤:初めて火災現場に行ったときのことはよく覚えています。駆けつけた時には、火災はほぼ収まっていましたが、鎮火確認、交通誘導など現場の作業はたくさんありました。新入団員だったので何からしたらよいのか分からず、他の団員に教えてもらいながらできることをやりました。現場活動の大切さを身をもって学び、消防団の必要性を感じた出来事です。
ーー斉藤さんが消防団として活動する上で原動力になっていることとは?
斉藤:消防の基本は、出られるときに出られる人が出動し活動すること。必要とされた時に出動することで、役に立てることが必ずあるんです。
それから、消防団の活動は火災現場だけじゃなく、台風などの自然災害への対策や対応、行方不明者の捜索などもあるんですよ。捜索は、地域を歩き回って探す、とても地道で人手がたくさん必要な活動です。だけれどそれによって行方不明者が見つかることもあります。
自分が駆けつけることで、少しでも被害の拡大を防げるのなら、という思いが原動力になっています。
ーー火災現場以外でも消防団は必要とされているんですね。斉藤さんは、地域に消防団がある意義をどのように考えていますか?
斉藤:消防署員だけでも鎮火することはできます。しかし、地域を守りたいという思いが集まった消防団の活動と消防署が連携することで、より迅速に対応し、地域に安心安全が得られると思います。
ーー冒頭のお話の中で持続可能な消防団と言っていましたが、 このままでは消防団が衰退してしまうということですか?
斉藤:私は40歳を越えて入団したレアケースです(笑)。実際、若い人たちが少なくて困っている消防団はたくさんあります。もちろん自ら興味があり加入する人も少数いますが、「消防団入らない?」と声をかけられて入団する人が多いですね。
ーー若い人が消防団に積極的に加入しなくなった理由とは?
斉藤:操法などの練習がキツイというイメージがあるかもしれません。あとは飲み会などのイベントも時代にあっていないというか…。昔はお酒を酌み交わして一致団結することもあったでしょうが、今の若い人はそういう飲みニケーションを求めていない人もいると思うんです。
ーーなるほど。今後消防団がどのような組織に変わることで持続可能な組織になっていくと思いますか。
斉藤:基本的なことを大事にする組織であれば、この先も続いていくでしょう。たとえば若い人が入ってきたときに、ちゃんとコミュニケーションをとるとか。極端に優しく接するという意味ではなく、訓練中にしっかりと丁寧に指導し、消防の活動の中で信頼関係を作るということですね。
江戸時代から存在していたと言われる消防団が、この時代まで残っていること自体が、僕はすごいと思うんです。だからこそこの先も守っていきたい。それには、ソフト(訓練の内容やコミュニケーションの方法)と、ハード(報酬や仕組み)の両面を改善していくことが重要なのではないでしょうか。
地域のために何かをしたい。その思いは消防団で実現できるかもしれない
直接的な関わりがないと、なかなか実態を知る機会のない消防団。今回は、上田・佐久地域の消防団経験者から話を聞き、消防団の活動についてまとめてみました。時代の流れとともに消防団活動の内容は少しずつ変化してきているようですが、今も昔も地域防災力として重要な存在とされています。
今回お話を伺い、消防団とは地域のために何かをしたい、その思いを消防という形で実現できる組織なのかもしれないと感じました。地域の安全・安心のために活動している消防団のみなさん、ありがとうございます!