プルーン畑からのメッセージ~人と人のつながりで、未来が広がる~
甘みと酸味のバランスが絶妙で、食べ応え抜群なプルーン。スーパーなどで加工された海外産のドライプルーンがおなじみですが、実は長野県佐久地域周辺では生食用のプルーン栽培が盛んに行われています。
プルーンの収穫期は7月後半から10月前半にかけて。フレッシュな生プルーンは産地でないとなかなか食べることのできない一品です。3年前に東京から佐久穂町に引っ越してきた筆者も、この時期はすっかり生プルーンのとりこ。
今回のコラムでは、産地だからこそ届けられるプルーンの魅力と、プルーン畑から広がる取り組み事例を紹介します。
収穫量全国1位を誇る長野県産プルーン
長野県内では佐久地域、長野市、須坂市などで生産されるプルーン。実は、ブルーベリーやネクタリンと並び、長野県が収穫量全国1位を誇る果物です。
プルーンの特徴の一つが収穫期に雨にあたると皮が割れてしまうこと。佐久地域は降水量が少ないためプルーン栽培と相性がよく、昼夜の寒暖差がある気候がおいしい果実を育てるそうです。
佐久穂町では、夏になるとプルーンの季節を知らせるのぼり旗が町中にはためきます。この時期、直売所ではプルーンを入手するために行列ができることも! 箱に詰められたプルーンが全国各地へ配送されていきます。
【参考】
デジタル農活信州『ランキングで見る長野県の農業』
長野県『長野県の園芸畜産 2021年』
ドライプルーンと何がちがう?生プルーンの魅力に迫る!
ドライブルーンを食べたことはあっても、生のプルーンは食べたことがないという人も多いのではないでしょうか? そこで、まずは生のプルーンの魅力を紹介します。
国産の生プルーンと外国産ドライプルーンの違いは、やはり圧倒的なフレッシュ感!
初めて生のプルーン食べると「プルーンってこんなにおいしいフルーツだったの!?」と驚くことでしょう。生プルーンは、ネット販売をしている農家や、取り寄せできるサイトから購入可能です。気になる人はぜひ食べてみてください!
【参考】
JAながの『農産物情報 くだもの プルーン・プラム』
産地ならではの取り組み。プルーン畑を学びの場として活用する佐久穂町にある大日向小学校の事例
サンラインエリアの特産品プルーンについて、もっと深く知りたいと思い佐久穂町に取材に行ってきました。
今回訪れたのは、学校法人茂来学園大日向小学校(以下大日向小学校)のプルーン畑。
畑を管理している大日向小学校・環境教育ファシリテーターの潮田都(うしおだみやこ)さんから話を伺いました。
潮田さんは、佐久穂町大日向地区の出身です。子どもの頃から自然や生き物が好きで、農学や生態学を学びたいと思い東京農業大学に進学。在学中から、廃校になった母校やこの地域周辺の環境を生かし、自然体験教室を開きたいと考えていたそうです。しかし、母校の校舎は大日向小学校開校前の準備財団が活用することになり、自らコンタクトを取り学校に関わりたいと志願。現在は、大日向小学校で環境教育ファシリテーターとして勤務しています。
プルーン畑から広がる子どもたちの探究心
ーーどういった経緯で、学校がプルーン畑を管理することになったのですか?
潮田:もともとこのプルーン畑は、大日向小学校の開校を楽しみにしていた地元のご夫婦の畑なんです。たくさんのご協力をいただいていたのですが、開校を待たずにご主人は天国へ。おじいさんが残した形見のようなプルーン畑を、学校として大切に使わせていただくことを誓い、お借りしています。現在プルーン畑は、環境教育のフィールドとして学校のみんなで活用中です。
潮田:新学期にはプルーン畑でお花見をし、1年を通して摘果・収穫・枝切りなどの作業を体験します。子どもたちは、プルーン栽培だけでなく、地域のことや環境、農業、流通など、多くのことを学んでいます。
ーー授業での子どもたちの様子を教えてください。
潮田:授業では、その日のテーマを用意し、子どもたちと作業します。同時に子どもたちがこの場所、このタイミングで感じたことも大切にしています。
ある日は、子どもたちの興味が途中からカエルやカブトムシに移り、生き物たちとの触れ合い体験のようになったことがありました。また、プルーンの木を種類ごとに数えて「この種類の木は何本で、こっちの種類は何本だから、この畑にはこの木のほうが何本多いね」と。プルーン畑での授業は環境教育だけでなく、理科にも算数にもいろいろな教科につながっていきます。
潮田:子どもたちの関心はその時々で変わりますが、プルーン栽培を1年通して体験することで、農業を自分ごととして学んでいます。「プルーン農家はこれが仕事だから命がかかっている」という気付きを持つ子がいました。この畑で過ごす時間が、農家の人の人生や生活と向き合う貴重な時間になっています。
プルーンフェスティバルで子どもたちがオリジナルレシピを開発!
ーー子どもたちは自分で栽培したプルーンをどのように食べていますか?
潮田:子どもたちは収穫したプルーンを、家に持ち帰り家族と一緒に食べたり、学校ではお昼ごはんのデザートとしてみんなでいただきます。
また、収穫の季節に学内ではプルーンフェスティバルを開催しています。このイベントでは、子どもたちがプルーンを使ったレシピを考え、調理実習と試食をしながら、みんなで収穫を喜び合うんです(※コロナ禍のため現在はレシピの考案のみ)。これまでに、プルーンカレーやプルーングラタン、プルーンとクルミのノンオイルビスケットなど、思考を凝らしたオリジナルレシピが生まれています。ちなみに私のイチオシレシピは半生ドライプルーン。市販品のドライプルーンとは一味違った、生プルーンのよさを生かしたドライプルーンが楽しめます。
プルーン畑から未来が広がる!
ーー初めてプルーンの木を見ましたが、こんなにたくさん実がなるのですね。
潮田:そうなんですよ。でも、管理を始めて3年目になりますが、年々プルーンが育ちにくくなっているなと感じています。私が子どもの頃の佐久穂町の天候と、今の天候とを比べると、かなり変化していると思うんです。生まれ育ったこの土地に今何が起きているのか、プルーンを通じて気候や環境の変化を子どもたちと共に研究していきたいですね。
ーー環境の変化の他にもプルーン栽培に課題はありますか?
潮田:課題としては後継者不足による栽培面積の減少があります。実際、この地域で私と同年代の人でプルーン栽培をしている人はいません。大日向小学校で取り組んでいるように、小さい頃から地域に目を向ける機会がもっと増えてもよいと思います。その中から将来農業をしたいと思う人がでてきたら後押しをしていきたいし、その時に農業の不安定な要素が保障される仕組みがあってほしいですね。
ーー潮田さんはこのエリアのプルーン栽培の今後をどのように考えていますか?
潮田:佐久穂町では生産者の高齢化により耕作放棄地が増えています。実際にプルーンの栽培をしてみてこの作業を少人数で行うのは、本当に大変だと実感しています。大日向小学校のプルーン畑は、学校の職員や保護者にも手伝ってもらいながら維持しています。プルーン畑の状況と今必要な作業を、チャットツールで可視化しているんですよ。
潮田:大日向小学校のプルーン畑はみんなのプルーン畑なんです。プルーン栽培だけをすることにとらわれず、ここが学びの場や体験の場、イベント会場など、この畑に関わる人たちといろいろなことに挑戦できる場にしていきたいです。こういった新しい考え方で管理される農地が増えてもおもしろいですよね。
教育・農業・地域の未来…プルーン畑を通して見えたこと
サンラインエリアの特産品、生プルーンのおいしさを多くの人に伝えたい、と思い企画した今回のコラム。実際にプルーン畑を訪れると、そこにあったのは、プルーンが人と人をつないでいく、教育・農業の分野を超えた新しい取り組みでした。
取材中、「プルーン畑からできることは、まだまだたくさんあるんです!」とワクワクした様子で話す潮田さんの姿がとても印象に残っています。生産者の高齢化や耕作放棄地など、産地が抱える課題はさまざまありますが、今ここからできること、広がっていく可能性を大事に行動していくことが、地域の未来につながっていくと感じました。