ワイン造りをシェアしてみたら、人のつながりと循環が生まれた! 東御市発・シェアヴィンヤードの活動に密着

コラム 2022.09.14

少ない降水量と日照時間の長さ、緩やかな斜面と水はけの良い土壌。ワイン用のぶどう栽培に適したエリアであるとして、個性豊かなワイナリーが数多く生まれている東御市。ヴィラデスト ガーデンファーム アンド ワイナリーやドメーヌナカジマなど、日本を代表する有名ワイナリーのぶどう畑が広がっているエリアの真ん中に、みんなでぶどうを育ててワインを造る・シェアヴィンヤードなるものがあると聞き、取材に行きました。ワイン愛好家たちによる趣味の活動と思いきや、シェアによって資源と人のよい循環・よい関係を生み出しているユニークなプロジェクトでした。

ヴィンヤードのシェアってなんですか? 活動日に密着

2022年4月末日。編集長のきむは、集合場所と指定された古民家へ。そこには東京などの首都圏から集まった5世帯・12名の人が、農作業スタイルで準備を始めていました。

少し離れたところから参加者の様子を見ている、みんなでぶどうを育ててワインを造る大人の部活動・シェアヴィンヤードのお世話係、辻佳苗さん。

もうすぐゴールデンウィークなのに、東御はまだまだ寒いですね。今日はよろしくお願いします!

この古民家が私たちのクラブハウスです。食事をしたり、宿泊をしたりと、部員さんが交流できる場として開いています。昨日の夜も、ワインとおいしい食事で盛り上がりましたよ。

古民家も部員のみなさんとシェアしているのですね! 実は私、シェアヴィンヤードという言葉を初めて聞きました。

文字通り、ヴィンヤード(ワイン用ぶどう畑)をみんなでシェアする取り組みです。うっかり広大な畑を借りてしまったのですが、私たち夫婦だけで管理するのは絶対無理だと思いまして…。

うっかり(笑)。

みんなで一緒に作れないかなという思いから大人の部活動という形にして、たくさんの人に関わってもらうようにしました。うっかりの理由については後ほど説明しますね。さぁ、畑に向かいましょうか!

活動を開始したのは2021年。佳苗さんが友人を中心に声をかけ始め、つながりがつながりを生み、部員数は約70名に。「ワイン」「食の安全性」「自然とのふれあい」に関心の高い人が参加しているとのこと。

現在の主な活動は、ワイン用ぶどうの苗木定植(苗植え)、除草、虫取り、副梢管理、剪定など。ぶどうが収穫できるようになるまでには最低でも5年はかかるため、手の空いたときには近隣のワイナリーの手伝いにでかけるのだとか。

この日のメイン作業は、シェアヴィンヤードに竜眼という品種の苗を植えること。技術指導をしてくれている地元のワイン生産者、Ro_vineyardの前澤隆行さんが不在のため、佳苗さんの夫、新一郎さんを中心に苗を手分けして植えていきます。

ワイン造りだって家庭菜園的にシェアできるはず

佳苗さんの本業はライター・編集者。プロではない人が踏み込むには難しいと思われるワイン造りに、なぜチャレンジしたのか。気になる「うっかり借りてしまった畑」の話から聞いてみました。

私たちは、東御市田沢地区で古民家を活用したシェアハウスの運営をしています。ある日、古民家の売主さんから「放置している畑があるんだけど、誰か借りたい人いないかな?」と声をかけられたんです。

耕作放棄地だったのですね。

興味のありそうな人に声をかけたのですが、うまくマッチングできず、お断りしようと思っていたんです。しかし、話を聞いてみるとその畑は有名ワイナリーのお隣で…!

なんとなくかっこいいですね!

そうでしょ? ワイン好きの私としては、ワイン用のぶどうを育ててみたいという気持ちがムクムクと大きくなっていき…。

それでうっかりなのですね!

ところが、契約のタイミングで広さを確認してみると、思っていたより大きかった! 農業経験も潤沢な資金もないのに、どうする私!? となりまして。

最初に広さを確認しなかったのですね(笑)。

そのとき、私と同じように自分でワインを造ってみたいと考えている人がいるのではないかと思ったんです。苗木のオーナー制度や収穫ボランティアはあるけれど、あくまで応援のスタンス。お金も払い、栽培にもしっかり関わり、ワインを造って飲むところまでできるサービスはあまりないなと。

確かにそうですね!

そこで、シェアヴィンヤードにするのはどう? と思いついたんです。家庭菜園みたいな気軽さで、ワイン造りもシェアできるといいなと。シェアハウスを運営しているからこその発想だったのかもしれませんね。

ワイン造りの一部だけでなく「どんなワインを造りたいか」からみんなで考えていますよね。そのため、参加者さんたちの満足度も高そうです。農作業後に、ワインと食事を囲んで交流する時間も楽しいという声もありました。

南米で暮らしていた頃、現地のワイナリーを巡ったことがありました。そのとき、言葉は通じなくても、ワインを通して仲良くなれたという経験をしたんですね。そういったワイン文化のすてきなところも、みんなでシェアしていきたいと考えています。

(辻さん提供)
(辻さん提供)

資源をシェアすることで、人のつながりと循環を生んでいく

日本でもここ数年で広く浸透してきたシェアリングエコノミー。今ある資源をインターネットを介して複数の人と共有できるビジネスモデルとして、人口減が進む社会でその可能性が注目されています。一方で、人口が少ない地方では需要と供給のバランスがとれず、シェアをすること自体の難しさがあるとも言われています。

(辻さん提供)

東日本大震災をきっかけに信州へ移住した佳苗さん。しかし、いざ家探しというタイミングで、気軽に住み始められる物件をなかなか見つけられなかったそうです。「こんなに空き家はあるのに貸し手が見つからない。空き家を活用できればもっと人の循環が生まれるはず」と考えます。そこで、自分と同じ思いを抱く移住者をサポートするため、古民家を活用した移住お試し用のシェアハウスの運営を始めました。

その後、佳苗さんたちは取り組みの母体となる一般社団法人Food&Ecology信州を立ち上げます。活動の主な目的は2つ。1つは、環境負荷を軽減させた循環型の暮らしの提案。築150年の空き家をモデルに、断熱、井戸水や太陽熱温水器を利用した風呂改修、残置物のアップサイクルなどを実践しています。

もう1つは、移住者と関係人口を増やし地域を活性化させること。都市部から人を呼ぶだけでなく、このエリアに住む人たちとのコミュニケーションや接点も大切にしています。シェアヴィンヤードでは、同じ東御市や近隣のワイン生産者のところに、病害虫防除や収穫の手伝いに行くなど、地域の人たちとの関わりを積極的に作っているそうです。

取り組みに共感した人たちが都市部を中心に集まり、シェアハウスは常時満室、シェアヴィンヤードも年々部員が増えているとのこと。地方のリソースの価値を再発掘し、シェアできる仕組みを作ったことで、人の循環・関係の広がりが生まれています。

(辻さん提供)

5年後のワインを楽しみに。地域にもっと根付いていく

佳苗さんたちのシェアヴィンヤードでは、昨年植えたピノ・ノワールが270本、今年植えた竜眼120本が、しっかり根を張って育っています。5年後どのようなワインに仕上がるのかを楽しみに、部員のみなさんは農作業に精を出していました。

私たちの取り組みでは環境に負荷をかけないことも大切にしているので、なるべく自然に寄り添う形で育てていこうと思っています。部員さんの大多数はヴァン・ナチュール(ナチュラル・ワイン)を目指したいと言ってます。

最近この辺でもナチュラルワインを提供するお店も増えていて、注目度が高まっていますよね。 でも、手間がかかりそう…!

日本は湿度が高いので、本来ワイン造りには適さない地域なんですよ。病気になりやすく、生産者は年中虫、病気、カビとの戦いを強いられます(笑)。

農薬を使わざるを得ない環境ですよね。

しかし東御は湿度が低く降水量も少ないので、ナチュラルワインを目指せなくはないと考えています。

虫や病気になった葉を見つけたら、一つひとつとっていく作業は発生しますが、それでも人の手でなんとかなりますからね。

そういった作業もみんなで取り組めば楽しくなりそうです。辻さんたちの取り組みや、シェアヴィンヤードに興味を持った人は、どこへ問い合わせをすればよいでしょうか?

シェアヴィンヤードのホームページからお問い合わせください。FacebookではシェアヴィンヤードグループページFood&Ecology信州のグループページも展開していますので、よかったらのぞいてみてください。

Facebookの投稿を見ていると、このエリアへの移住を検討している人、移住に来て地域との関わりを作りたいと考えている人、長く地域を支えている人など、いろいろな人たちが登場しますね。関係人口が広がっていることを感じられます。

関係する人が増えれば増えるほど、地域に根付いた活動になっていくと思っています。東御を中心に、このへんのエリアがもっと活性していくとうれしいです。

佳苗さん、新一郎さん、ありがとうございました!!

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