農業ってどうやって始めるの?新規就農1年目の農家が伝えるリアルな話
とある日のサンライン編集部。企画会議中に「私たち夫婦、今年から新規就農しまして…」と話すと、かなり大きなリアクションをもらいました。
「新規就農ってなに?」
「えっ、専業で農業してるの?」
「ぶっちゃけ食べていけるの?」
などなど…。
質問攻めにあいながら感じたのは、「意外と農業のことってあまり知られてないんだな」ということ。とはいえ私たちも新規就農1年目。知らないこともたくさんあり、「農業で食べていけるのか?生活は成り立つのか?」という部分に関しては、正直私が一番知りたいことでもあります!
しかし、新規就農1年目を今まさに経験しているからこそ、お伝えできることがあるかもしれない!というわけで、今回は、農業ってそもそもどうやって始めるのか、販路開拓はどうするのかなど、新規就農1年生として奮闘中の農家のリアルをお届けします。
新規就農とは?農業を始めたいと思ったときにやること
簡単に説明すると、農業に携わる人には、家が代々農家で事業を継承した農業後継者と、自分の代で農業事業を興す新規就農者がいます。
少子高齢化が加速している日本では、農業の後継者不足は深刻な課題です。そのため国では、次世代の担い手として新たに農業に取り組む新規就農者を積極的に支援し、本気で農業に取り組みたいという人が一からチャレンジできるよう応援する制度を整えています。長野県では、就農までのステップを8段階に分け、それぞれの段階でどういったことをすればよいのか、詳しく紹介しています。長野県での就農に関しては、デジタル農活信州でも詳しく記載されています。
就農への具体的な支援制度は、2つに分けられるでしょう。1つは技術の習得と、もう1つは資金の調達です。新規就農する場合に活用できる主な制度を表にまとめました。(2021年4月現在)
技術の習得 | 資金の調達 |
・新規就農里親制度 ・各種研修制度 (農業技術・経営スキルアップ研修) | ・農業次世代人材投資資金(旧・青年就農給付金) (準備型 150万円/年、2年以内) (経営開始型 1~3年目 150万円/年、4~5年目 150万円/年) ・青年等就農資金 (融資限度額3,700万円、返済期間17年以内) |
【参考】
長野県 『就農までのステップ』
長野県農政部 『 デジタル農活信州 』
農林水産省 『 農業次世代人材投資資金(旧青年就農給付金) 』
農林水産省『新規就農者向けの無利子資金制度について』
つくった野菜はどこに売る?意外と多様な販路
農家が作る野菜の販路として流通量が一番多いのは、JA(農協)などが買い取り先となる市場出荷と呼ばれるものです。スーパーや青果店で購入する野菜のパッケージには「JA〇〇 新鮮野菜」など、生産地域のJAの名称が入っているものをよく見かけるのではないでしょうか。
しかし最近では、市場出荷に加えて各農家が独自の販路を持っている傾向に変わりつつあります。一例をあげると以下のような販売経路が増えています。
・インターネット販売(ホームページからの個人宅配、オンラインマルシェなど)
・食品宅配グループ(コープなど)
・野菜直売所、道の駅など
JAなど卸先を1カ所に決め、求められる規格で大量に出荷できるのであれば、農家としても効率がよいと言えます。では、なぜ販路は多様化する傾向にあるのでしょうか。
農家自らが販路をもち売り先を選ぶことの最大のメリットは、野菜の価格や生産量を取引先と交渉したり自分で決めることができることです。少量多品目の栽培に取り組む農家にとっては栽培計画を立て適正な価格で取引することで安定した経営をできるようになります。
また、直売ではこだわりをもって作った野菜の推しポイントを農家自らが消費者に伝えることができます。例えば市場では規格外になってしまう商品でも品質や味がよいのであれば購入したいという人もいます。消費者からの「〇〇さんの野菜はおいしい!」という言葉は、農家にとって何よりの励みになるのです。
新規就農した農家の話~1年目だから伝えられること~
ここからは、今年新規就農をした農家のリアルなストーリーをご紹介します。私たち夫婦は、佐久穂町で今年からはたけや農場をスタートしました。30代で独立し、栽培期間中に化学的に合成された農薬と肥料を使わない農業で多品種の野菜を栽培しています。編集部が人手不足のため、筆者が夫(はたけや農場代表 宮嶋達也さん)に取材する形でまとめたいと思います!
なぜ農業の道へ進まれたのですか?
宮嶋:何を仕事にするか考えた時に人が生きていく中で、最もシンプルなことに真剣に取り組みたいと考え、食べるものを作る農業を目指すことにしました。
大学卒業後に農業の道を志し、もともと長野が地元なので県内の八ヶ岳中央農業実践大学校で農業の基本技術を学びました。農業に取り組むのであれば、より食べ物が必要とされる途上国で作りたいと思い、西アフリカのセネガルで青年海外協力隊の野菜栽培隊員として活動。日本に帰国後は、日本の野菜栽培技術をもっと学びたいと考え、農家で働きはじめます。自分も結婚して息子が生まれタイミング的にも「今かな」と思い独立(就農)を決心しました。
なぜ佐久穂町を新規就農先として選んだのですか?
宮嶋:佐久穂町との出会いは、栽培技術を学びたい農家があったからです。植物生理学を基にした栽培技術の理念を学びたいと思い、ここに来ました。実際この場所で野菜づくりをしてみて、晴天率が高いこと、標高が高く冷涼で寒暖差のある気候が、野菜のよい味を引き出すと知りました。そして佐久穂町には、同じ栽培方法に取り組むチームがあり、困ったときは相談できるし、切磋琢磨しあえる環境があるのが魅力です。
栽培している作物を教えてください。
宮嶋:農家勤務時代に学んだ土壌分析を実践し、栽培期間中に化学的に合成された農薬と肥料を使わない農業で多品種の野菜を栽培しています。信州の伝統野菜である松本一本ねぎを主軸に、レタス、春菊、カリフラワー、ナスなども育てています。春菊はこのあたりの農家で春から秋にかけて広く栽培し、生で食べておいしいサラダ春菊として好評です!出荷先はコープなどの野菜宅配業者をメインに出荷しています。
これまで大変だったことはなんですか?
宮嶋:農家勤務時代はこのままこの農家で働き続けるか、独立して新規就農するかを何年もかけて考えていました。一人でやっていけるのかという不安もあったし、独立のための資金もなかなか貯まらなくて(笑)。いざ独立を決めた後も、勤めながら就農準備を進めるのは大変でした。就農計画や補助金の申請などは、JAや町の農政課の方にサポートしていただきましたね。
就農に必要な資材や土地などはどうしましたか?
宮嶋:農業資材購入には、新規就農者向けの無利子資金制度(※上記表の「青年等就農資金」)を利用しました。中古のトラクター、業務用の冷蔵庫、土壌改良のための有機質肥料の購入などに充てています。ビニールハウスは町の人が貸してくれたり譲ってくれたりしているので、とても助かっています!土地はJAを通じて紹介してもらいました。
農家としてのやりがいはなんですか?
宮嶋:農家なので当たり前ですが、自分が作った作物を人に食べてもらえるということですね。畑の土壌分析を含めた栽培計画から土作り、種まき、定植、植え付け、収穫まで全部自分で考え実践することは意外と大変で、その過程で不安になったり迷ったりもします。でも一歩ずつ進めていくことで野菜が無事に育ち、収穫した作物を多くの人に届けられる。これが何よりのやりがいです!
これからの課題を教えてください。
宮嶋:まずは注文を受けているものをしっかり出荷すること。その上で、不足分や過剰に野菜が出きてしまった時に臨機応変に対応できるようになりたいです。これから迎える繁忙期には初めてスタッフを雇用するので、きちんと人を雇用して給料を支払うシステムを作ることも課題です。なんせ全てが初めてのことなので…。課題は山積みですが、一つひとつ対応していきたいと思います。
生活していけますか?
宮嶋:ぶっちゃけ1年目は大変です(笑)。新規就農の経営開始型の補助金(※上記表の「農業次世代人材投資資金」)のサポートもありますが、最初の作物を出荷して売上が振り込まれるまでは貯金を切り崩して生活しています(泣)。ここから軌道にのって生活していけるよう頑張ります!
意外と制度が整っている、農家への道
農業未経験者が新規就農を目指すためのステップや農家の販路、活用できる制度など、現実感をもって伝わりましたでしょうか。サンラインエリアには、この地域の気候や特徴などを活かして農業経営されている若手農家も増えてきています。
この記事を読んで農業に興味を持った人は、まずは自治体の就農相談へ行ってみてはいかがでしょうか?