【内沼晋太郎×柚木真 対談(後編)】「浅間サンラインで変なことしようものなら…」長野のこのへんメディアが届けたいものと守りたいもの

インタビュー 2021.06.17

「長野の東側、浅間サンラインが走るこのエリア。最近関心高まってるし、移住で来る人たちも増えている。おもしろい人たちを紹介して、つないで、このメディアから新しいコトが始まるような、そんな作ろうよ」から始まったこのメディア。

長野のこのへん サンラインの名付け親である内沼晋太郎さんと、編集長柚木による対談の前編では、浅間サンラインへの愛を語り尽くしつつ、このメディアを作ろうと思った理由や命名の由来について話しました。

ひとしきり浅間サンラインの好きなところを話した後、「僕このへんに住みはじめてまだ2年なんだよね。長く住んでいる人からすると『何を勝手に語ってるんだ』って思われるかもしれないけど」と、一瞬遠慮を含んだ表情を見せた内沼さん。しかし、最近越してきたからこそわかるんだよと、東京から見るサンラインエリアの魅力について話しはじめてくれました。

内沼晋太郎

ブック・コーディネーター、クリエイティブ・ディレクター。新刊書店「本屋B&B」と出版社「NUMABOOKS」の経営と「八戸ブックセンター」「BIBLIOPHILIC」などに携わる。バリューブックス社外取締役、散歩社取締役。
https://uchinuma.com/

株式会社はたらクリエイト取締役・デジタルマーケ/SEO/広報。Google Workspaceの正規代理店の株式会社TSクラウド代表取締役。新宿区生まれ育ち、2014年に長野県へ移住。温泉・ビール・焚き火があると昇天。https://twitter.com/Shin_Yuno

東京からみたとき、「海より山かな」の第1候補

柚木:東京から見たときのこのへんの魅力ってなんでしょうか?僕も東京出身なんですけど、住みはじめて長いので、よくわからなくなってきました。

内沼:まずは近いことです。東京との往復がイメージできる距離感。片道2~3時間圏内といったところかな。新幹線が通っていて行き来もしやすい。あとは自然が豊かなこと。子育てがしやすい環境であることですね、保育園事情も含めて。家族はもちろん、自分自身も気持ちよく暮らしていく場所としてちょうどいい

柚木:なるほど。

内沼:僕の見立てだと、東京あたりに住んでいる人の中では、今3方向が人気なんですよ。まずは長野のこのへん、そして神奈川県の葉山や逗子のあたり、そして千葉のいすみ市あたり。

柚木:確かに都心から2時間圏内ぐらいですね。

内沼:それで考えたときに、千葉県のいすみと神奈川県の葉山はなんですよ。長野のこのへんはその2つよりちょっと遠いけど、山の第1候補。「海よりは山かな」という人に最初に選ばれる場所が、サンラインのあるこのへんなんじゃないかなというのが僕の仮説です。

柚木:この3カ所に住んでいる人たちに出てきてもらって、それぞれ自慢するのもコンテンツとして面白そう。

内沼:バトルしてもらおう! 日本のいろんなものの中心が東京にあると考えると、東京から見える選択肢の中に、サンラインのこのへんが入っているとうれしいですよね。「こういう良さがある」というのを伝えていきたい。

裏テーマは「浅間サンラインのブランディング」

内沼:実際、サンラインエリアへの移住、最近本当に増えてきているじゃないですか。住む人が増えるということは大規模な開発も進みやすくなるのではないかと、少し懸念しています。とくにこのあたりだと、軽井沢以外は景観を守るための規制がそこまで厳しくないから、バンバン何かをつくることができちゃう。サンラインを走っていても、太陽光パネルだけが並んでいる場所、たくさん見かけるようになりましたよね。

柚木:斜面がいい感じなんで、発電にはうってつけなんでしょう。

内沼:自然エネルギーの活用はもちろん大切なんですが、一方でサンラインの景色から森林が失われてしまうと、やはり無残なことになってしまう。だからサンラインを守りたい気持ちもあるんです。メディア名を「サンライン」にすることで、「浅間サンライン、いい道らしいぞ」ってブランディングを勝手にするという裏テーマ。

柚木:裏テーマ! 大事ですよね。

内沼:そこを走る僕たち自身がブランディングすることで、サンラインの景観維持にもつながる。「浅間サンラインで変なことしようものなら許さないぞ」って。価値を高めていきたいですね。

柚木:今回、メディア名を「サンライン」にしようと決めて、実際運転して走ってみたんです。すごく解像度が上がったというか、より立体的に見えてきましたね。これまではなんとなくいいなとしか思ってなかっただんだなって。

内沼:長く住んでいるとそうかもしれませんね。

テレフォンショッキングのようにつながる

柚木:このへんの良さを伝えるとき、僕たちはまず住んでいる人の魅力から伝えていきたいと思っているんですよ。

内沼:最初から「人にフォーカス当てていきたい」って言っていましたね。柚木さんが「サンラインエリアのおもしろい人なら大体友達」みたいな、そんなポジション目指せるといいんじゃないですか?

柚木:それが最終目標ですかね(笑)。「こういうことしたい」って思ったときに、人の顔がすぐ浮かぶみたいな状態がいいなと思っています。

内沼:インタビューを読んで「へー、この人って佐久に住んでるの?」という発見から、何かが始まるんじゃないかなと思いますね。僕の場合でも、取材やSNSなどで長野にいることを伝えると、それを読んだ人が「内沼さん長野にいるの?」と知って、そこから「僕も長野にいるから会いましょう」って連絡が来るんです。発信すればするほど集まってきて、面白くなってきた感じありますね。

柚木:最近僕の周りでも、東京から地方へ移住したという報告を見かけるようになりました。

内沼:「笑っていいとも」みたいな感じで広がっていくと思うんですよね。

柚木:あのコーナー!

内沼:インタビュー後、まず最初に「他のおもしろい人紹介してください」って聞いて、教えてもらうじゃないですか。それだけじゃなくて、「今思い当たらない人でも、この記事がでると必ず『あなた長野のこのへんにいたんだ』という連絡がどこかから来ます。その人も必ず紹介してください!」と最初に言っておくといいんじゃないですかね?。

柚木:このへんに引っ越したことを、すべての知人が知っているわけないですもんね。

内沼:SNSのいいところって、何年も会っていない人ともつながっていることじゃないですか。このへんにいることを知らせると、「俺も最近…」みたいな人が出てくるから、その人も紹介してねと。永遠のループ。それでずっと行けるんじゃないですか?

内沼:あとね、町長とか市長にもアタックしたほうがいいですよ。

柚木:そうですね。

内沼:街の魅力も語ってほしいけど、人となりが見える記事にしたいと真摯に伝えれば、取材受けてくれそう。

柚木:確かに、ニュースとしては知っているけどどういう人なのかはわからないですよね。なぜ政治家を目指したのか、とか。

内沼:どんな食べ物好きなんですかとか。

柚木:食べ物! そういう距離感、大切ですよね。そう言われると、自分が住む上田市長のこと、全然知らないです。

このメディアでできること

内沼:今このへんに移住に来る人は増えてきているけれども、一気に盛り上がると一気に冷めていくのが世の常だと思っています。

柚木:確かにそうなんですよね。

内沼:このメディアでは、「今このへんがイケてる」みたいにブームを仕掛けるより、地道に良さを伝えていってほしいです。みんな、10年後20年後このへんでよい暮らしをしていきたいと、それなりの覚悟を持って来ているから。

柚木:そうですね。自分たちの手で、もっとこのへんの暮らしをよくしていきたいですね。

内沼:あと、よいメディアを作るためには、作る人たちの意識もすごく重要じゃないですか。作る人が隅々わかっている。編集部の人たちが「サンラインエリアのことなら任せとけ」って言えるようになってほしいです。

柚木:前編でも話にあがった、地域メディアのちょうどいいサイズという視点では、作り手の意識と読み手の意識が近いと、気持ち良い体験になりそうですよね。

内沼:読み手がほしい解像度と、作り手が持っている解像度。大事ですよね。

柚木:まずはこのへんにいる人、集まってきた人を取材していくんですけど、その人たちがつながれば、おもしろい「コト」も生まれると思うんです。一緒に何かを作るとか、共同で何かを運営するとか。そういったのもおもしろいと思っていて。インタビューを重ねて見えてきた「コト」も丁寧に拾って行きたいなと思っていますね。

内沼:一度取り上げた人も「3年暮らしてみてどうですか?」と追いかけてみたり、この人とこの人が始めた小さな取り組みにスポット当てたり。長期で付き合っていけるといいですね。

柚木:遠い未来まで、関係性が見えるイメージですね。

内沼:うん、やっぱりサンラインなんですよ。高速道路や新幹線のスピード感じゃない。解像度高く、丁寧に拾っていく

柚木:遅すぎず、早すぎず。サンラインのスピードと気持ちよさ、メディアで作っていきたいです。

いつ見ても、眺めがよくて気持ちいい。

浅間サンラインの魅力を語るうちに、私たちが作りたいメディアのあり方や、作り手を読み手の関係性が、より鮮明になっていきました。サンラインの解像度とスピードで、このエリアの人々の暮らしやそこから生まれるコトを、シームレスに、丁寧に紹介していきたいと思っています。

内沼さん、ありがとうございました!

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